連載766 ロシアに対する経済制裁は効かない 世界は分断され、インフレは進み、ドルまで崩壊する (中2)
(この記事の初出は4月12日
アメリカが動かないのは国益からか?
ロシアを非難しながら、ウクライナを本当の意味で助けないアメリカは、「偽善者」と言っていい。バイデン大統領は、そのことを意識すらしていないようである。
キーフ郊外の町ブチャでの虐殺が発覚後、制裁強化でアメリカがやった最大のことと言えば、武器の供与を加速させる「レンドリース・アクト」(武器貸与法)を議会で可決したことだろう。
これは、第二次大戦でソ連に武器供与してナチスドイツと戦かわさせたことと同じだ。アメリカは、結局、日本が真珠湾攻撃をするまで参戦しなかった。
アメリカが動かないのは、政治的には伝統的な「モンロー主義」、あるいは「第三次世界大戦恐怖症(核戦争恐怖症)」にあると言えるかもしれない。しかし、経済的に見れば、国益に合致している。
ウクライナ戦争の長期化は、アメリカに好景気をもたらすからだ。
“ウクライナ特需”に湧くアメリカ産業界
アメリカは、ロシアに対する経済制裁の反動をドイツのように受けない。むしろ、トクをする。
原油や天然ガスばかりか、小麦やトウモロコシといった穀物価格も高騰しているが、産油国であり農業大国でもあるアメリカにとって、これは歓迎すべきことだ。
シェールガス企業は“ウクライナ特需”で復活し、欧州各国との供給契約を続々と結ぶようになった。中西部の農家の収入もうなぎ上りになってきた。穀物メジャーも売り上げ倍増で笑いが止まらない。小麦輸出が世界1位のロシアと世界2位のウクライナからの輸出がストップすれば、アメリカの一人勝ちになるに決まっている。
その結果、アメリカは景気が好転し、インフレに対してFRBが利上げをしてもいい状況になった。
しかし、日本は違う。「失われた30年」を引きずり、コロナ禍による落ち込みをいまだに回復できていない。少子高齢化が進み、人口がどんどん減っていく。資源も食料もない。こんな国が、アメリカと同じような経済制裁を行い、同じような金融政策を行えるわけがない。
NATO加盟国でありながら反米のトルコ
西側による経済制裁が効かないことを見抜いて行動している国の筆頭が、中国である。インドやブラジルも同じだ。ロシアとの関係を断ち切るようなバカな真似をすれば、自国経済が危うくなる。これは、トルコのような新興国も同じで、エルドアン大統領は、独裁色をますます強めている。
彼は、オスマン帝国の復活を目指しているというが、EUやアメリカとロシアの対立を巧みに利用している。
今回、ロシアとウクライナの停戦協議の仲介に入ったのも、そうした戦略の一環と思われる。現在のトルコはNATO加盟国でありながら、反米、反イスラエル、親ロシアである。EUに加盟申請しているが、イスラム国家であることで拒否されている。
このようななかで、2020年、ロシアから黒海を経由して天然ガスの供給を受ける全長約930キロのパイプラインを完成させた。トルコもまたエネルギー源をロシアに依存しているのだ。
さらに、ロシアの最新鋭の地対空ミサイルシステム「S400」を購入して配備した。「S400」はアメリカの「パトリオットミサイル」に比べ倍以上の射程があるという。
トルコが「S400」を導入すると、NATOの戦闘機の性能がロシアに筒抜けになる恐れがあるので、トランプ前大統領は大反対した。しかし、エルドアン大統領は聞く耳を持たなかった。
そんなトルコが、いま、ウクライナにドローン「バイラクタルTB2」を供与し、ロシア軍の戦車を破壊させているのだから、国際政治はデタラメとしか言いようがない。
(つづく)
この続きは5月12日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
→ 最新のニュース一覧はこちら←