連載770  米対中ロによる「新冷戦」は宇宙に拡大! すでに全人類が監視されている (上)

連載770  米対中ロによる「新冷戦」は宇宙に拡大! すでに全人類が監視されている (上)

(この記事の初出は4月19日)

 ウクライナ戦争で、私たちは衛星写真による戦線の状況を何度見せられただろうか? いまや、戦争は地上ばかりではない。宇宙にも拡大しており、今後は、アメリカ対中ロによる「新冷戦」が宇宙でも展開されるのは確実だ。
 ロシアは「ISS」(国際宇宙ステーション)から離脱し、今後は中国の宇宙ステーション「天宮」に参加するだろう。中ロとも、現在、宇宙兵器の開発を急ピッチで進めている。
 それなのに、日本では、降ってわいたような核武装論議。あまりに時代に遅れすぎていて、絶望するほかない。

 

ほとんど報道されなかった民間「ISS」旅行

 ウクライナ戦争のさなかの4月8日、民間人4人が搭乗したスペースX社の宇宙船「クルードラゴン」(Crew Dragon)が打ち上げられ、「ISS」(International Space Station:国際宇宙ステーション)に到着した。
これは、アメリカの民間宇宙企業「アクシアム・スペース」(Axiom Space)が主催した初めての「ISS」旅行で、民間による宇宙旅行新時代を象徴するイベントだから、アメリカではかなり大きく報道された。
 しかし、日本での報道は小さかった。
 昨年暮れ、実業家の前澤友作氏が、日本の民間人として初めてISSに行ったときと比べたら雲泥の差である。
 あのときは、「一般の人の宇宙旅行が現実になった」と、メディアは大騒ぎした。しかし、いま思えば、前澤友作氏をISSに運んだのは、ロシアの宇宙船「ソユーズ」(Soyuz)だから、隔世の感がある。ウクライナ戦争が3カ月早かったら、前澤氏は宇宙に行けなかっただろう。
 「ISS」は、現在、危機的な状況にある。もし、宇宙船「クルードラゴン」がなければ、今後、西側の人間はISSに行けないし、「ISS」そのものの持続性も危ぶまれているからだ。

「ISS」が落下するのを誰が防ぐのか?

 西側の経済制裁に対して、ロシアは次々に反撃しているが、その一つが「ISS」に対する脅しだ。ロシアの宇宙機関「ロスコスモス」(ROSCOSMOS)のドミトリー・ロゴジン総裁は、3月半ば、こうツイートした。「もしわれわれとの協力をやめたら、ISSがアメリアやカナダ、中国やインドに落下するのを誰が防ぐのか?」
 この発言は単なる口先だけの脅しではなく、現実に起こりえることだ。
 「ISS」は高度400キロメートル付近を飛行しているが、地球の重力に引っ張られるため定期的に押し上げる必要がある。この役割を担っているのがロスコスモスで、ISSはロスコスモスの補給船のエンジンで軌道を修正している。
 つまり、ISSからロシアが本当に離脱してしまえば、ISSは制御ができなくなるのだ。
 また、「NASA」(航空宇宙局)の「スペースシャトル」(Space Shuttle)が退役した後は、「クルードラゴン」ができるまで「ソユーズ」しか宇宙飛行士を輸送する手段がなかった。つまり、「ISS」において、ロシアの役割は非常に大きかったのである。

「ISS」運用期限はあと2年、2024年まで

 実際、ロゴジン総裁の発言後、アメリカは慌てた。「ISS」に滞在中のアメリカのマーク・バンデハイ宇宙飛行士が帰還する予定だったからだ。
 そのため、NASAは「経済制裁下にあっても米ロの非軍事分野の宇宙協力は許容される」という声明を出した。これにより、3月30日、バンデハイ宇宙飛行士は、2人のロシア人宇宙飛行士とともに「ソユーズ」で地球に帰還できたが、それ以外のロシアとの宇宙事業はすべてキャンセルになった。
 フランスの宇宙企業「アリアンスペース」(Arianespace) がカザフスタンで進めていた「ソユーズ」打ち上げの共同事業は中止となり、英国の通信衛星企業「ワンウェブ」(OneWeb LLC)のインターネット衛星の「ソユーズ」での打ち上げも中止になった。「ESA」(欧州宇宙機関)がロシアと共同で計画していた火星探査も中止になった。この計画も、探査機打ち上げに「ソユーズ」を使う計画だった。
 「ISS」の運用は、当初計画では2024年までとなっていたが、NASAは6年延長して2030年までの運用を目指していた。しかし、ロシアの協力が得られなくなったので、断念する可能性が高まった。制御技術の開発ができれば可能だが、時間が足りないと言われている。
(つづく)

 

この続きは5月18日(水)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 


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