連載771 米対中ロによる「新冷戦」は宇宙に拡大! すでに全人類が監視されている (中)
(この記事の初出は4月19日)
月面基地の建設を目指す中国の宇宙計画
「ISS」は、国際協力、世界平和の象徴だった。宇宙には紛争を持ち込まず、全人類が協力して開発事業を行うことで、世界中が合意していた。
しかし、もはやそれは単なる理想と化し、「ISS」からのロシアの離脱で、宇宙も紛争、戦争の場となるだろう。地上でのアメリカ対中ロによる「新冷戦」は、今後、宇宙でも展開されることになった。
すでに中国は、アメリカと協力することを嫌い、独自の宇宙計画を着々と進めている。中国の「一帯一路」は、宇宙まで及んでいる。
中国の宇宙事業をになう「中国航天科技集団」CASC:China Aerospace Science and Technology Corporation)は、2025年までに有人月探査船を月に送り込み、2030年には月面基地を建設することを表明している。そのため、現在、地球周回軌道に載る有人宇宙ステーション「天宮」(ティアンゴン:国際名CSS:China Space Station)を組み立て中で、「天宮」は今年いっぱいで完成する予定だ。
この「天宮」に、「ISS」から離脱したロシアが参加するのは間違いない。中国メディアは、先日、ロスコスモスのロゴジン総裁が、「天宮」での中ロ協力に期待を示したと伝えた。
すでに、中国とロシアは、アメリカ主導の有人月面探査「アルテミス計画」(Artemis program)に対抗するかたちで、月面基地建設の協力を打ち出している。
すでに米ロを超えた中国の宇宙技術
日本では、中国の宇宙計画を見下す向きがあるが、その技術は驚くほど進歩している。もともとの技術はロシアだが、すでに本家ロシアを凌駕し、アメリカをも超えようとしている。それを如実に示したのが、2019年1月の月面無人探査機「嫦娥4号」(チャンウー4号)の月の裏側への着陸成功だ。
月の裏側への着陸は、人類史上初めてのことで、これを実現させるは高度な技術が必要だったが、中国はこれを見事にクリアしてしまったのだ。
月は地球に対して、常に同じ面を向けている。地球から月の裏側は観測できない。しかも月は、地球からの電波を遮断するので、月の裏側では地球から電波によるコントロールができない。1968年、アポロ8号が初めて月の周りを飛行したとき、短時間だが地球との通信が途絶えた。しかし、「嫦娥4号」は、この難問を、電波を中継する通信衛星を打ち上げることで解決し、月面探査機をコントロールしたのだ。
なぜ、中国が月の裏側にこだわったのか?
それは、次に予定している月への有人飛行と、さらに恒久的な月面基地の建設に必要だからだ。中国は、おそらく月の裏側にある「L2」というポイントに電波中継システムをつくり、さらに月軌道上に宇宙ステーションをつくると見られている。
中国が狙うのは月の資源と領有化
地球と月の周辺には、「ラグランジュアン・ポイント」(Lagrangian point:L点)という、重力が均衡するポイントが5つ存在する。その1つの「L2」は月の裏側にある。このL点では、宇宙船は一定の場所で止まっていられる。
だから、中国は「L2」に宇宙ステーションをつくろうとしているという。
月軌道上に宇宙ステーションがあり、月面に基地があれば、月をほぼ支配、領有できる。月には氷や水があり、飲料水に利用できると言われている。また、ロケットや探査機の材料にもなる鉄やチタン、アルミニウムのほか、核融合の燃料になるヘリウム3もあるとされている。
これらを先に手に入れ、それを利用することを中国は狙っている。
1967年に発効した「宇宙条約」(Outer Space Treaty)によって、国家による月や天体の領有は禁止されている。しかし、資源開発での鉱区の設定、宇宙にある物質の所有権などに関しては明確な規定がない。そのため、中国が事実を積み上げて実効支配を進めれば、その動きを排除しようがない。
月の資源を「人類の共同財産」と定める「月協定」(Moon Treaty)が1984年に発効しているが、米中ロなど主な宇宙先進国は批准していない。日本も批准していない。
(つづく)
この続きは5月19日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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