連載772  米対中ロによる「新冷戦」は宇宙に拡大! すでに全人類が監視されている (下)

連載772  米対中ロによる「新冷戦」は宇宙に拡大! すでに全人類が監視されている (下)

(この記事の初出は4月19日)

 

ロシア、中国は「衛星破壊兵器」を拡充中 

 ロシアのウクライナ侵攻を「ジェノサイド」(大量虐殺)とバイデン大統領が非難するなか、4月12日、「DIA」(国防情報局)は、宇宙の安全保障に関する報告書を公表した。
 このDIA報告書は、ロシアと中国による「宇宙兵器」の開発が進んでいることを指摘し、とくに「衛星攻撃兵器」(ASAT:anti-satellite weapon)を脅威だとしていた。
 アメリカ軍は、湾岸戦争で初めて「全地球測位システム」(GPS:Global Positioning System)を本格的に軍事作戦に生かし、圧倒的な軍事力でイラク軍を撃破した。以来、衛星による地上監視能力を向上させ、軍事作戦の衛星依存度を高めてきた。ウクライナ戦争でも、アメリカの衛星が収集した情報がウクライナ軍に提供され、ロシア軍撃退に役立っている。
 しかし、この過度の衛星依存はアメリカ軍の弱点でもあり、そこを突くべく、ロシアと中国は、ASATを開発・拡充していると、DIA報告書は述べている。「中国の人民解放軍は、おそらく、ASATを地域紛争でアメリカの介入を抑止・対抗する手段と位置づけている」とし、台湾海峡や南シナ海での有事でアメリカに対して衛星攻撃をしてくる可能性があるという。

「指向性エネルギー兵器」と「極超音速ミサイル」

 DIA報告書によると、中国はすでに、高度2000キロメートル以下の低軌道で運用する衛星を攻撃する地上発射型の衛星攻撃用ミサイルを配備している。さらに現在、高度3万6000キロメートルの静止軌道の衛星にも届くミサイルを開発している可能性があるという。
 また、レーザーなどのエネルギーを攻撃目標に照射して破壊する「指向性エネルギー兵器」(DEW:directed-energy weapon)も開発していて、その性能向上に務めているという。指向性エネルギーとは、マイクロ波、ラジオ波、レーザーなどで、これをビームにして発射し、目標を破壊する。
 さらに、DIA報告書は、「極超音速兵器」(HAWC:Hypersonic Air-breathing Weapon Concept)の脅威も指摘した。中国は2021年7月に「大陸間弾道弾」(ICBM)によって、地球の周回軌道に極超音速の滑空体を投入し、攻撃目標が近づいた段階で下降させたという。
 ちなみに、極超音速とはマッハ5以上を指す。

極超音速ミサイルは撃ち落せない

 ウクライナ戦争で、ロシアは極超音速ミサイル「キンジャール」( Kh-47M2 Kinzhal)を使用したと発表した。これは、航空機から発射する空対地ミサイルで、核弾頭も搭載できるので、その破壊力は凄まじいものがある。
 極超音速ミサイルには、エンジンがある「極超音速巡航ミサイル」(HCV:Hypersonic Cruise Vehicle)と、打ち上げられた後に滑空するだけの「極超音速滑空体」(HGV:Hypersonic Glide Vehicle)がある。
 ICBMのような弾道ミサイルは、基本的に宇宙空間に向けて発射され、目標に向かって降下する。そのため、標的や軌道を絞り込みやすく迎撃もしやすい。
 しかし、極超音速ミサイルは、高度100キロ以下の比較的低いところをランダムに飛ぶので、探知そのものが難しく、迎撃が困難だ。今年の1月、北朝鮮が日本海に向けて発射実験を行ったミサイルは、のちに極超音速ミサイルであることが判明した。
 現在、日本は、中国や北朝鮮のミサイル攻撃を念頭にして、「ミサイル防衛」(MD:Missile Defense)の強化を進めているが、極超音速ミサイルには効果が期待できない。
 それなのに、ウクライナ戦争が起こってから、「核武装論議」が活発化している。しかし、聞いてみると、核武装の必要を説くだけで、こうした最新の兵器に対して具体的にどうするかという話はほとんど聞こえてこない。核は単に持てばいいというだけの話ではない。
(つづく)

 

この続きは5月20日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 


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