連載773  米対中ロによる「新冷戦」は宇宙に拡大! すでに全人類が監視されている (完)

連載773  米対中ロによる「新冷戦」は宇宙に拡大! すでに全人類が監視されている (完)

(この記事の初出は4月19日)

 

宇宙戦争の鍵を握る「衛星測位システム」

 現在、中国とロシアが軌道上で運用している衛星は、合計で約660基という。この2年間で7割も増えたと、DIA報告書は指摘している。軍事衛星も含めて、衛星の打ち上げ競争が世界中で行われている。
 この衛星を破壊するのが宇宙における戦争だが、そうしないことには地上での戦争でも勝てない。ただし、宇宙での戦争と地上での戦争では大きく違う点がある。それは、宇宙空間は、宇宙ステーション以外に人間がいないということだ。よって、軍事攻撃したとしても死傷者は生まれない。
 また、軍事衛星に限らず、地球周回軌道にある衛星が攻撃によって機能を喪失しても、それが「スペースデブリ」(space debris:宇宙のゴミ)との衝突なのか、あるいは太陽フレアの影響なのか、攻撃によるものなかを判断することが難しい。
 となれば、本格的な戦争となれば、真っ先に、宇宙での戦いが始まるだろう。「衛星測位システム」が破壊されれば、軍の展開はもとより、一般の社会生活でも大混乱が起きる。

世界には4つの「衛星測位システム」がある

 中国は現在、アメリカの「GPS」(Global Positioning Systemに対抗して、独自の「北斗衛星導航系統」(BDS:ベイドゥ・システム)を構築し、全世界規模で展開している。すでに、このシステムを構築する衛星「北斗」(ベイドゥ)が35基、地球上の軌道を周回している。
 中国の「北斗」は、「一帯一路」を宇宙空間まで広げる計画の一環で、中国ではこれを「一帯一路空間情報回廊」と呼んでいる。「北斗」は、途上国を中心にすでに30カ国以上をカバーしていて、こうした国々では当然ながら中国の政治的影響力が強まっている。
 現在、世界には4つの大きな「衛星測位システム」(Satellite PNT system)が構築され、日々、運用されている。中国の「北斗」、ロシアの「グロナス」(GLONASS)、アメリカの「GPS」、EUの「ガリレオ」(Gallileo)である。
 日本も「みちびき」というシステムを持っているが、日本及びアジア太平洋地域向けのローカルシステムだ。

宇宙軍を創設しては覇権獲得を目指す

 このように見てくれば、ウクライナ戦争の長期化は、近いうちに宇宙までも「アメリカ(+EU、日本)」と「中ロ(+反米諸国)」の2つのブロックに分断してしまうだろう。
 現在、中国は、「軍事強国」路線をひた走り、陸海空戦力はもとより、宇宙戦力も増強している。これにロシアが加わると、どうなるのか? 
 すでに、トランプ政権から中国はアメリカの敵となり、アメリカは先を見越して、「宇宙軍」(US Space Force)を創設した。2018年、トランプ前大統領は、「アメリカが宇宙に存在感を示すだけでは不十分だ。宇宙にアメリカの覇権を打ち立てなければならない」と述べた。
 前記したように、現在の「宇宙条約」には欠陥がある。
 それは、原則的に平和利用をうたっているだけで、明確に禁止されているのは、「宇宙空間への大量破壊兵器の配備」および「月およびその他の天体への軍事利用は一切禁止」の2点だけということだ。そのため、軍事衛星を活用したり、宇宙兵器を配備したりすることは、各国による条約の解釈次第ということになる。
 ロシアと中国は、明らかに条約を無視し、覇権を得をようとしている。

「制宙権」を握るのはどちらか?

 バイデン政権は、3月末に公表した2023会計年度(22年10月~23年9月)の予算教書で、「宇宙拠点システム」への予算を217億ドル(約2兆7000億円)とし、前年度に比べて3割も増やした。
 はたしてアメリカは、中ロとの宇宙覇権戦争に勝てるだろうか?
 すでに、私たちは中ロの衛星測位システムによって、常時監視されている。もちろん、アメリカからも監視されている。いまさら、これを嘆いてみても仕方ない。どうせ、監視されるなら、どちらのサイドがいいかというだけの話だ。
 NASAの月面有人探査「アルテミス計画」は2024年実施を目指していたが、かなり遅れている。そうなると、中国に先を超される可能性がある。
 月面有人探査に続くのが、「月軌道プラットフォームゲートウェイ」( Lunar Orbital Platform-Gateway:LOP-G)である。アメリカ主導で、月軌道上に宇宙ステーションを構築するというものだが、これも中ロに先を超される可能性がある。中国では、宇宙での覇権を「制宙権」と呼んでいる。「制海権」「制空権」と同じ扱いだ。
 ウクライナで日々失われていく命を思うと、本当にやりきれないが、宇宙を専制国家に支配されてしまうことを想像すると、慄然とする。そうなると私たちは、地上でただ働くだけの奴隷になってしまうだろう。


(了)

 

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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 


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