連載780 米対中ロによる「新冷戦」は宇宙に拡大! すでに全人類が監視されている (中1)
(この記事の初出は5月10日)
宇宙覇権獲得のための2本柱とは?
ロシアは、昨年、2025年までにISSから離脱することを表明したが、それがウクライナ戦争によって早まった。ロスコスモスのロゴジン総裁は、4月30日、「運営国に通知してから1年ですべて作業を終了する」とロシア国営テレビで宣言した。
ロシアはすでに、独自の宇宙ステーションである「ロス」(ROSS:Russian Orbital Service Station)の建設計画を進めている。もはや、宇宙開発で西側と協力する気はなく、先に独自の宇宙ステーションの建設を始めた中国だけと協力する姿勢を見せている。
現在、中ロ両国とも数多くの軍事衛星、スパイ衛星を持ち、独自の「全地球航法衛星システム」(GNSS:Global Navigation Satellite System)を構築して運用している。中国の「北斗」(Beidou)、ロシアの「グロナス」(Glonass)は、アメリカの「GPS」、EUの「ガリレオ」(Gallileo)と対抗している。この4つのGNSSが、いま全世界を宇宙から監視している。
宇宙ステーションとGNSSは、宇宙覇権の2大柱である。宇宙ステーションは、宇宙を海にたとえれば空母であり、GNSSはレーダー網にあたる。
現在、宇宙ステーションはISSだけが、地球軌道上にある。しかし、2020年代後半になれば、中ロの2機のほか、アメリカが民間主導で3機、インドが1機持つことになる。これらは、後で詳しく説明する。
宇宙での最大の脅威は「衛星攻撃兵器」
アメリカが、中ロの宇宙開発を脅威とし始めたのは、「衛星攻撃兵器」(ASAT:anti-satellite weapon)を開発し、実用化に乗り出したからだ。この分野で先行したのは中国で、2007年、中国は自国の人工衛星を地上発射型のミサイルで破壊する実験に成功した。
以後、ASAT開発はロシアでも進み、昨年、ロシアは宇宙空間にある衛星からミサイルを発射して、軌道上にあるほかの衛星を破壊することに成功している。
さらに、敵の衛星を無力化する「キラー衛星」の開発も進んでいる。また、敵の衛星をつかんでコントロールすることができる「ロボットアーム搭載衛星」も開発・運用されている。
アメリカの「国防情報局」(DIA:Defense Intelligence Agency)は、先月、宇宙の安全保障に関する報告書をまとめた。そのなかで、中ロのASATを宇宙において最大の脅威としている。
ASATによりGNSSを構成する衛星が無力化されてしまえば、地上での戦闘は方向性を失う。また、たとえばイーロン・マスクのスペースX社によるインターネット接続サービス「スターリンク」(Starlink)の人工衛星群が破壊されれば、ネットは機能しなくなる。
有名無実化する「宇宙の平和利用」
宇宙開発の初期、世界各国は、宇宙には紛争を持ち込まず、全人類が協力して開発を行うことを約束した。いわゆる「宇宙条約」(Outer Space Treaty:正確には「月その他の天体を含む宇宙空間の探査および利用における国家活動を律する原則に関する条約」)が結ばれ、宇宙は平和利用に限定された。
しかし、中ロ両国は、この条約が原則的に平和利用をうたっているだけで、明確に禁止されているのが「宇宙空間への大量破壊兵器の配備」および「月およびそのほかの天体への軍事利用」の2点だけということを突いて、軍事利用に乗り出した。
ミサイルとロケットは、同じものである。したがって、観測衛星と軍事衛星の区別などないも同然だ。平和利用などいうのは、単なる言葉遊びにすぎない。
このままいけば、宇宙での核使用禁止も有名無実化されるだろう。いずれ、宇宙ステーションに地上攻撃用の核ミサイルが搭載されるかもしれない。
中ロが宇宙兵器の開発・運用を始めただけでなく、アメリカが宇宙軍を創設したことで、もはや宇宙空間の平和利用はありえなくなった。
宇宙覇権を先に獲た国が、全人類の運命を握ることになる。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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