連載782 米対中ロによる「新冷戦」は宇宙に拡大! すでに全人類が監視されている (下)
(この記事の初出は5月10日)
国際協力よりも中国との協力を選ぶ
このように見てくると、ロシアは米中に大きく遅れをとっていると思える。かつて、宇宙船ミールを運用していたころの旧ソ連は宇宙先進国だった。しかし、いまのウクライナ戦争を見てもわかるように、ロシアは先端技術に大きく遅れをとっている。
とはいえ、ロシアにも意地がある。昨年8月、ロスコスモスは、ロシア独自の宇宙ステーション「ロス」を建設することを発表した。これは、ISSからの離脱を見据えてのこととされたが、それ以上に大きな理由があった。
一つは、プーチン大統領がNATOに対して反感を持ち、アメリカ主導を嫌ったこと、もう一つは宇宙に関して中国と協力するほうが有利と判断したからだ。
すでに、ロシアは2020年時点で、NASAが主導する月軌道周回ステーション「ゲートウェイ」の建設計画に参加しないことを表明していた。また、2021年3月には、月面基地の建設で中国と協力する覚書に調印していた。
計画倒れに終わる可能性がある「ロス」
ロスコスモスが発表したところによると、ロシアの宇宙ステーション「ロス」は、6基のモジュールが連結されたもので、基本的には無人で運用される。宇宙飛行士は、定期的にロスに送り込まれ、シフトを組んで活動する。ロスと同軌道上に、小型の無人自律モジュールが打ち上げられ、ロスのメンンテナンスなどを行う。
ロスコスモスは、「ロス」を「有人小型宇宙船のための宇宙港」と位置付け、ここを拠点にさまざまな宇宙探査を行うと表明。たとえば、将来的に火星探査を行うモジュールの試験飛行などを行うという。
しかし、私が話を聞いた専門家は、「なにかあいまいで、なにを目指しているのかよくわからない」と言った。
ロシアのことだから、いろいろなことを隠している可能性がある。ただし、公表資料をみる限り、「旧ソ連が計画して実現できなかった『ミール2』の焼き直しに思える」と、彼は続けた。
「ロス」は、ISSと違って低軌道に投入され、ISSよりははるかに小さい。最初のコア・モジュールの打ち上げは2025年と発表されたが、実現できるかどうか、ウクライナ戦争の行方次第と言えるだろう。
ただし、一つ指摘しておきたいのは、「ロス」は中国の宇宙ステーション「天宮」より劣っていることだ。情報を見た限り、そのようにしか思えない。
進む民間宇宙ステーションの建設計画
アメリカが宇宙開発に民間参入を認めたこともあり、今後、宇宙ステーションは建設ラッシュを迎える。
昨年3月、NASAは「商用LEOデスティネーション」(CLD
:Commercial LEO Destination)というプロジェクトを発表した。「LEO」とは、地球を周回する低軌道のことで、ここに、「デスティネーション」(宇宙港)となる商用(民間)宇宙ステーションを建設しようというのだ。
このプロジェクトの背景には、NASAの財政難およびISSの維持費がかさんだことがある。これらの一部を民間でまかなってもらい、宇宙ビジネスを発展させるのが狙いだ。このプロジェクトが公表されるや、企画が次々とNASAに寄せられた。
その結果、現在、アメリカでは3つの宇宙ステーション計画が進められることになった。
その筆頭は、「アクシオム・ステーション」(Axiom Station)だ。ベンチャー企業アクシオム・スペース社が進めているもので、2024年後半に最初のモジュール「アクシオム・ハブ・ワン」を打ち上げ、ISSにドッキングさせる予定になっている。その後、複数のモジュールが打ち上げられて増設されていき、2028年前後にISSが退役した後は、単独で軌道上に留まり運用される。
ちなみに、1カ月ほど前の4月8日、アクシオム・スペース社が企画した「Ax-1」ミッションによって、同社のアレグリアCEOと3名のビリオネアが、スペースX社の宇宙船「クルー・ドラゴン」(Crew Dragon)に搭乗して、初の民間の宇宙飛行参加者としてISSに滞在した。
(つづく)
この続きは6月6日(月)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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