連載785  これが最良シナリオ プーチンのロシアはどのように崩壊するのか? (中1)

連載785  これが最良シナリオ プーチンのロシアはどのように崩壊するのか? (中1)

(この記事の初出は5月3日)

 

食料とエネルギー以外は脆弱なロシア経済

 はっきり言って、経済制裁が「兵糧攻め」なら、それは効果薄だ。ロシアは資源大国かつ農業大国だからだ。原油産出量世界第3位、小麦生産量世界第3位、ジャガイモ生産量世界第4位、トウモロコシ生産量世界第10位のロシアが、エネルギーと食糧に困るということはまずありえない。
 ソ連崩壊後のハイパーインフレ時も、人々は郊外のダーチャ(郊外の家)で自ら生産したジャガイモなどの農作物で飢えをしのいだ。ロシア人は、あの広大な大地がある限り、飢えることはない。
 しかし、食料とエネルギー以外のロシア経済は脆弱だ。
 ロシア経済は、この2本柱の輸出で成り立っていて、消費財や生産財のほとんどを輸入に頼っている。
 ソ連時代は、ロシア経済は共産圏内で回っていたが、ソ連崩壊後に自由世界とつながると、ロシア経済は完全に輸入依存型になった。資源と余剰農産物を輸出して、日常生活の必需品を輸入するという構造に変わった。これは、日本とは真逆の経済である。


日本の部品がなければ兵器すらつくれない

 ソ連崩壊で国内の多くの産業が衰退し、軍事や宇宙開発などを除けば、ほとんどの分野で、ロシアは国際競争力を失った。いまのロシアは、21世紀型の産業を支える製品をつくれない。軍事産業にしても、武器製造に必要な部品、半導体などは、みな輸入するしかない。
 最近、大きな話題になったのが、ロシア軍の偵察ドローン、自爆ドローンから、日本製の製品、部品が次々と発見されたことだ。
 ドローンの目となるレンズは、キヤノンの一眼レフカメラのレンズ、エンジンは小型エンジン製造で有名な斎藤製作所のエンジン、電源となるリチウムイオン電池はパナソニック製のNCR18650Bといった具合だ。
 自社製品の軍事使用に驚いたキャノンなどの日本メーカーは、ロシア向けの出荷を即座に停止した。
 このように、ロシアはもはや先進国家ではない。プーチン大統領の時代になり、資源価格が上昇したことがアダとなった。これで、ロシアは海外から潤沢に製品が輸入できるようになり、イノベーションを怠ってしまった。
 プーチン大統領は、これまで、単についていただけだ。ロシアはまったく大国ではないのである。今回の制裁で、西側企業はロシアから次々と撤退したため、近いうちにロシアは武器すらつくれなくなるだろう。

 

インフレが進み国民生活は窮乏する

 ロシアの貿易収支は、資源の輸出による貿易収入を除けば赤字である。よって、経済制裁がロシアの石油と天然ガスの輸出をストップさせることができれば、ロシアは海外からのモノとサービスの輸入ができなくなり、ロシア人の生活は困窮する。
 SWIFT排除などによる金融制裁によって、すでにロシアの貿易は行き詰まっているので、今後、ロシア国内では、モノ不足によるインフレが加速するだろう。アメリカや西側諸国のインフレ以上に深刻なインフレが、今後、ロシア国民を襲うだろう。
 こうなると、ロシア政府は、国民生活をソ連時代に戻すほかなくなるかもしれない。つまり、食料や生活必需品の配給制である。ソ連時代は、常にモノやサービスが不足していたにもかかわらず、配給制によって基本的な国民生活は成り立っていた。
 しかし、21世紀の社会は、ITとネットによる高度情報社会である。情報インフラのレベルが低下していく社会に、ロシア国民は耐えられるだろうか? 人の暮らしは、食べ物と安全だけがあればいいというものではない。

(つづく)

 

この続きは6月9日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 


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