連載786  これが最良シナリオ プーチンのロシアはどのように崩壊するのか? (中2)

連載786  これが最良シナリオ プーチンのロシアはどのように崩壊するのか? (中2)

(この記事の初出は5月3日)

 

EUが石油と天然ガスでトドメを刺す

 EUは年末までにはロシア原油の輸入を停止し、天然ガスも段階的に削減していく方針を公表している。あのドイツでさえ方針転換して、「ノルドストリーム2」を諦め、年内にロシア産原油の輸入をストップさせる。天然ガスは、需要の半分近くをロシアに依存しているために簡単にはストップできないが、それでも、中東とアメリカからのLNG輸入に切り替えていくという。
 また、これまでの再生可能エネルギー一辺倒政策をやめ、原発、石炭発電を復活させる。先日、シュルツ首相が来日したが、日本側に水素技術の協力を求めてきたという。EVに傾注し、日本のディーゼル車を排除しようと躍起になってきたドイツは、手のひらを返したのである。
 現在、EUでロシア産原油の輸入禁止措置に反対しているのはハンガリーだけだ。
 とはいえ、経済制裁の抜け道はいくつもある。
 中国やインドがこれ幸いと、バーゲン価格にせざるをえなくなった石油と天然ガスを買い叩いている。しかし、こうした抜け道はいずれ塞がれるだろうし、EU以上の大口顧客が現れる可能性はない。
 イランに対する経済性制を例に取ると、現在のイラン原油の輸出は、制裁以前の半分に減少している。ロシアもそうなるのは確実だ。


鍵を握る中国はロシアを助けるのか?

 経済制裁が効くかどうかの鍵を握るのは、やはり、中国である。現在のところ、中国は「曖昧戦略」を取り、経済制裁には反対しているものの、ロシアを積極的に支援する姿勢も見せていない。原油・天然ガスの輸入は続けるだろうが、それも必要量だけになるだろう。
 コロナ禍が起こる前の2019年、ロシアの輸出先の国・地域別シェアを見ると、中国は約13%でEUは40%超だった。中国がEUを代替するとは考えにくい。
 ただし、「中ロ善隣友好条約」がある以上、ウクライナ戦争が長期化してロシアが中国を頼った場合には、中国が武器、弾薬、などの軍事物資を供給することは大いに考えられる。
 その場合、戦争はさらに長期化するわけだが、この選択が中国にとって国益にかなうかどうかは中国自身の判断だ。
 常識的な指導者なら、自国を西側の対ロシア制裁の巻き添えにすることは避けるだろう。西側の経済制裁が自国にまで及べば、中国は本当に世界からディカップリングされ、中国製品は市場を失ってしまう。
 中国としてはむしろ、ウクライナ戦争でロシアが弱体化するのを歓迎するだろう。そうなれば、ロシアは中国の支配下に組み込まれ、かつてロシアに獲られた沿海州を取り戻すことも可能になる。中央アジアにおける「一帯一路」も強化できる。

 

国民の困窮で危機に陥るプーチン政権

 5月2日、ロシアの独立系世論調査機関「レバダセンター」が公表した4月下旬の調査によると、「特殊軍事作戦」(ロシアでは戦争と呼んでいない)に関する世論調査で「支持する」との回答が74%で、3月の調査から7ポイント減少したという。また、プーチン大統領の支持率も82%と、前回から1ポイント下がった。
情報統制下にあるロシアの世論調査など信用に値しないが、それでも下がっていることは、人心がプーチン大統領から離れつつあることを示している。
 これまでの西側の専門家の分析を見ると、ロシアにおけるクーデターの可能性はほとんどない。ただ、経済が著しく落ち込めば、政権転覆の可能性は高まるとしている。
 コロンビア大学のティモシー・フライ教授は、「ポリティコ」への寄稿で、「請求書を支払えない政府は政治的不安を起こす」と述べている。
 ロシアの世論調査に関しては、「独裁国家では、エリートと大衆は政権に真意を表さない」とし、「実際に反対する政権に対して公開的には支持を表明するケースが多い」と説明したうえで、「大衆が本当に感情を表す瞬間は徐々に、そして突然到来する」と述べている。

(つづく)

 

この続きは6月10日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 


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