連載791 今秋、日本経済に訪れるメルトダウン 「失われた30年」から「どん底の30年」へ (中2)
(この記事の初出は5月17日)
ついに始まった怒涛の値上げラッシュ
ファンタジーでも、それを全員が信じ続ければ、危機はすぐには訪れない。これまでの日本はそういう状況だった。しかし、これからは違う。厳しい現実が、ファンタジーを突き崩す。それが、すでに始まっているスタグフレーションだ。
不景気下で物価だけが上昇し、賃金は上がらない。そうして、私たちの暮らしはどんどん貧しくなる。
昨年から私はずっとこのことを指摘してきたが、ここにきての物価上昇、値上げラッシュが、日本がスタグフレーションに陥ったことを如実に示すようになった。
5月15日の産経新聞は『食品などの値上げ止まらず、家計にしわ寄せ、消費の冷え込みも』という記事で、さまざまなモノの値上げを伝えている。
以下、主なもの列記してみる。
・「ハウス食品」は、主力の「バーモントカレー」を含む家庭用と業務用のカレールウやレトルト製品など479品目を、8月15日納品分から約5~10%値上げ。
・菓子メーカーの「やおきん」は、駄菓子の「うまい棒」を昭和54年の発売以来、初めて税抜き10円から12円に値上げ。
・回転ずし「スシロー」は、1皿の最低価格(税込み)をもっとも安い郊外型店舗で110円から120円に値上げ。創業以来守ってきた「税抜き1皿100円」は姿を消した。
以上は食品だが、いまやあらゆるものが値上がりしている。ガソリン価格から始まり、たとえば、JALはエコノミークラスの普通運賃を値上げした。この夏の甲子園の高校野球も、入場チケットの値上げが発表された。
7月の参議院選の争点は物価対策
5月16日、日銀が発表した4月の企業物価指数(CGPI)速報によると、国内企業物価指数(2015年=100.0)は前年同月比プラス10.0%となった。
上げ幅は比較可能な1981年以降で最大。国内企業物価指数の上昇は14カ月連続、指数の113.5は統計開始の1960年1月以降で最高水準に達した。
この原因を、メディアは「コロナ禍」「円安」「ウクライナ情勢」の3点として報道しているが、問題はそんなことより、こうしたことに日本経済がからきし弱く、政府には打つべき手がないことだ。
もちろん、打つべき手がないわけではない。ただそれは、本質的な解決、日本経済を強くする手ではない。単なるバラマキによって、価格上昇の影響を抑えることにすぎない。
その典型が、ガソリン価格の上昇を抑えるために行った石油元売り会社に支給する補助金の上限の引き上げだった。
いずれ、政府は食料品にもこうした措置をとっていくだろう。たとえば、小麦価格は政府のメーカーへの売渡価格によって決まる。世界的な小麦価格の上昇に際し、岸田首相は価格に変動はないと言ったが、これはいまがその改定月ではないからだ。次の改訂は10月だから、そのときがくれば確実に上げざるをえなくなるだろう。
さらに、低所得家庭に対する支給金の給付も、またやり始めることになるだろう。
現在、どの政党も政治家も7月の参議院選挙に向かって動いている。この選挙の争点は、間違いなく物価対策になるはずだ。そうなると、各政党の公約は、バラマキ合戦になるだろう。その財源は、増税と国債発行。これにより、日本はさらに衰退していく。
(つづく)
この続きは6月17日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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