連載796 どうやっても変われない日本
バイデン大統領来日とフィンランドのNATO加盟 (中2)
(この記事の初出は5月24日)
フィンランドに対する関心が一気に高まる
それにしても、予想したとおり、ウクライナ戦争は長期化し、このまま膠着した状態が続いていくようだ。
そのため、最近はあれほど過熱していた報道量が減り、関心が薄れている。知床の観光船沈没事故や山口県阿武町の誤送金事件のほうが報道量が多い。
しかし、驚いたことがある。
それは、先々週から、NATO加盟申請、サンナ・マリン首相の来日もあり、フィンランド関連の報道がものすごく増えたことだ。これにより、日本人のフィンランドに対する関心が一気に高まった。
ムーミンとマリメッコとサウナぐらいしか知らない一般の日本人が、フィンランド冬戦争・継続戦争まで知ってしまった。
「日本とフィンランドは同じ枢軸国、第2次大戦の敗戦国だったんですね」と、友人から真顔で言われた。
フィンランド冬戦争・継続戦争は本当に壮絶な戦いで、映画にもなっている。フィンランドは侵略してきたソ連と戦い、その後は、ドイツを追い出だすためにも戦った。映画で見て、本を読み、話を聞いただけだが、スキーで雪原を移動しなければならない冬の戦いにおいては、フィンランド軍は世界一強い。
1人で数百人のソ連兵を狙撃したという伝説のスナイパー、シモ・ヘイへの話は有名だ。
サンナ・マリン首相来日の本来の目的
サンナ・マリン首相の来日中、フィンランド人の私の娘の夫は大忙しだった。都内のホテルに泊まり込みで、首相と行動を共にした。
日本では、報道が、世界一若い女性首相(36歳)ということとNATO加盟ばかりに集中したが、彼女の本来の来日目的は、6Gと量子コンピュータなどで世界最先端をいくフィンランドのハイテクビジネスのプロモーションのためだった。
そのため、ビジネスフィンランドのチームといっしょに経団連との会合を持ったし、東大とのミーテイングでは、真剣なスピーチをした。しかし、こちらのほうは、ほとんど報道されなかった。
日本にとって大切なことは、フィンランドと同じように国防を強化することよりも、未来のハイテク技術に遅れをとらないことである。
5Gでは、日本はまったく出る幕がなかった。次は6Gだが、5Gに続いて6G、さらに量子コンピュータでも遅れをとると、日本の将来は暗くなる。
民主的、平等な制度の「徴兵制」が必要
ウクライナ戦争が起こり、フィンランドとスウェーデンがNATO加盟を申請したことで、日本の右派、保守派が活気付いた。
「日本もフィンランドと同じ、ロシアの隣国。いまこそフィンランドに学べ」「国防を強化せよ」「防衛費を2%にせよ」「核を持て」「憲法を改正せよ」などと、勇ましい。
しかし、そんなに国防が大事なら、なぜ、徴兵制を言わないのだろうか? 韓国は徴兵制を敷いている。フィンランドもそうだ。徴兵制というのは、誰もが公平に国のために戦うわけで、もっとも民主的、平等な制度だ。
現在、私の娘は妊娠中で、来月末が予定日である。来月、私の孫が生まれるわけだが、この孫は、フィンランド人とのハーフになるので、18歳になったら国防軍に入らなければならない。まさか、こんなふうになるとは夢にも思わなかったが、これが現実だ。
マリン首相は、NATO加盟申請に際して、国民向けに「これで安心できる」と盛んに言っているが、フィンランド人のロシアに対する猜疑心は深い。
ロシアは、フィンランド国境の部隊の増強を決め、フィンランド向けの天然ガスの供給をストップさせた。
(つづく)
この続きは6月24日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
→ 最新のニュース一覧はこちら←