連載801 「フェイクほど拡散する」SNS時代。踊らされない、投資に失敗しない方法とは? (中2)
(この記事の初出は5月31日)
情報量があまりに多すぎて思考停止に
なぜこうも、いまの若者はリテラシーが低いのだろうか。いや、若者ばかりではなく、SNSが浸透するにつれて、全世代にわたってリテラシーが落ちている。
というより、情報量があまりに多すぎて、人間の処理能力を超えてしまったのかもしれない。そうなると、人は思考停止状態に陥り、目にしたもの、聞いたもの、読んだものをそのまま受け止めてしまう。
かつて、「アラブの春」を起こした「ネットの力」は、一昨年、アメリカでトランプ支持者による議会突入事件を起こし、民主主義を崩壊させた。
そしていま、ウクライナ戦争では、ウクライナとロシアのSNSによる情報合戦により、戦争の実態をわからなくさせている。
ウクライナ側は、ロシアに比べれば、たしかに事実に基づいて情報を出しているが、そこに操作がないとは言い切れない。ロシア側は明らかにプロパガンダを発信しているが、どこまでが嘘なのかは確かめようがない。
現代の戦争の第6の領域は人間の脳
最近、私は「制脳権」という言葉を知った。
もともとは、中国の軍事研究者がつくった言葉で、海を押さえる「制海権」、空を押さえる「制空権」と同じように、人の脳を押さえるのが「制脳権」で、現代の戦争においては欠かせないとされる。
これまでの戦闘領域と言えば、「陸」「海」「空」「宇宙空間」「サイバー空間」の5つだったが、「制脳権」は第6の戦闘領域である。
具体的には、SNSを使って自分たちにとって都合のいい情報、敵を欺くフェイク情報などを流しながら、人々の認識や感情を変えていく。そうして、最終的には人々行動や世論を操る。
つまり、「洗脳」して、「制脳」(脳をコントロール)してしまう。こうすると、人間そのものが兵器になる。こうした戦争を、中国では「智能化戦争」と呼び、英米では「intelligentized warfare」と呼んでいるという。
フェイクのほうが真実より速く拡散する
ネットにおける情報拡散に関して、特筆すべきことが何点かある。そのうちの4点を、以下に示す。
第1は、フェイクニュースのほうが真実より拡散スピードが速いということ。また、拡散の範囲が広いということ。
これは、2018年、学術誌「サイエンス」に掲載されたマサチューセッツ工科大学助教のソローシュ・ヴォソゥギ氏らによる論文で明らかになった。彼らは、10万件超のツイートを分析し、真実が1500人に届くにはフェイクニュースより約6倍の時間がかかること、フェイクニュースのほうが真実よりリツイートされる可能性が70%も高いことなどを明らかにした。つまり、ウソは高速で拡散するのだ。
第2は、フェイクニュース拡散の原動力は、「目新しいこと」に尽きるということ。ウソか真実かであるよりも、ともかく目新しいことのほうが速く、より広く拡散する。
真実を明らかにするには時間がかかる。しかし、ウソは創作だからすぐできる。
第3は、新聞・テレビの情報より、SNSを通して伝えられる情報のほうが信頼されるということ。これは、ネットに限らず、すべてのメディアで明らかなことで、人間は情報そのものよりもその情報を誰が言ったのかを重視する。つまり、発信者が誰かで信用するかしないかを判断している。
となると、現代人はニュースをほとんどSNSで知るので、たとえば自分がフォローしている友人がニュースを拡散している場合、同じニュースを他人や新聞、テレビで知るよりも信用してしまう。
第4は、正義感や怒りのほうが拡散しやすいということ。 「こんなバカなことがあるか」「この人は許せない」というような正義感や怒りに基づく投稿は、「これはすばらしい」「こんなことが好き」などという投稿より速く拡散する。
多くのフェイクニュースは、わざとこうした感情を刺激するように創作されている。その結果、社会の分断がよりいっそう進むことになる。
(つづく)
この続きは7月1日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。