連載803  「フェイクほど拡散する」SNS時代。踊らされない、投資に失敗しない方法とは? (完)

連載803  「フェイクほど拡散する」SNS時代。踊らされない、投資に失敗しない方法とは? (完)

(この記事の初出は5月31日)

 

世界的な投資家は自分の目しか信じない

 このロスチャイルド伝説を、金融関係者や投資アドバイザーは、繰り返し個人投資家に話す。そうして、教訓として「投資にはいかに情報が重要か」を説く。
 その結果、ネットの時代になっても、個人投資家は有効な情報を血眼になって集めている。
 しかし、ネットには投資に直接役立つ確実な情報があるだろうか? 各国が発表する経済数値にしても、はたしてそれが本当かどうかはわからない。
 それ以前に、ロスチャイルド伝説は本当なのだろうか?
 ジム・ロジャーズは、投資先を自分の目で確かめようと、世界を巡る「冒険投資家」となった。ウォーレン・バフェットは企業と経営者を自分の目で見定め、納得しないと投資しなかった。なぜ、彼らは投資において、そんな行動を取ったのだろうか?

 

敗戦を知ったネイサンがまずしたことは?

 じつは、ロスチャイルド伝説はウソ、作り話である。ネットの情報や投資アドバイザーの話などに踊らされず、きちんと専門書や研究書を読めば事実はわかる。
 ここでは、次の2冊を挙げておく。『ロスチャイルド 富と権力の物語(上・下)』(デリク・ウィルソン、本橋たまき訳、新潮文庫)『世界金融 本当の正体』(野口英明、サイゾー)
 当初、ネイサン・ロスチャイルドは、それまでのナポレオンの戦争のときと同じように、今度の戦争も長引くだろうと予測していた。そのため、戦時中に需要が急増するはずの金を大量に買い込み、それで利益を上げようと目論んでいた。したがって、敗戦によってナポレオンの天下が100日で終わったことは大誤算だった。
 たしかに、ネイサンは密使をブリュッセルに派遣したが、ナポレオンが敗北した6月18日の深夜にブリュッセルで発行された新聞の遅番を手に入れ、それを中継で運ばせただけにすぎない。それだけでも、当時としては早かったので、すぐにリヴァプール卿(ロバート・ジェンキンソン首相)に伝えに行った。しかし、執事は、首相は就眠中で起こせないと面会を断った。
さらに、翌朝、ネイサンが伝言を届けても、リヴァプール卿は公式情報に反するとして信じなかった。
 それでも、伝説が言うように、ネイサンは英国国債を逆売りなどしなかった。ネイサンがしたのは、素直に多額の資金を投じて英国国債を購入したことだった。

 

事実から得られる教訓はいまも通用する

 ネイサンは、英国がワーテルローの勝利によって、戦費として調達した政府借入金が減り、英国国債が値上がりすると予測した。そして、この予測に賭けたのである。
 長期戦になるという読みを外し、それによって損失を被る可能性がある以上、こうするほかなかったとも言える。
 ネイサンは、辛抱強く英国国債を持ち続けた。そうして、1年以上経って40%以上値上がりした時点で手放した。
 つまり、情報をいち早く仕入れて、ほかの投資家たちを欺くインサイダーまがいの取引をやって儲けたのではない。自身の予測を信じ、それに基づいて長期投資をして利益を得たのである。
 したがって、伝説は間違っており、本当の事実から得られる教訓は次のようになる。
 「投資は事実に基づき自分で判断すること」「投資は長期を基本とすること」の2点である。
 フェイクニュースほど拡散するSNS全盛時代にあっても、この教訓は通用する。フェイクニュースには、くれぐれも騙されないように注意したい。


(了)

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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 


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