連載804 株価はもう上がらない!
世界経済は試練の「長期低迷」へ (一の上)
(この記事の初出は6月7日)
NYダウも日経平均も反発力が弱まった
今年になってから、株式市場は日々乱高下を続けながら、ずっとダウントレンドである。それが、顕著になったのが、5月13日から5月20日までの1週間だ。
この1週間で、NYダウは2.90%下落し、なんと「8週連続続落」という、大恐慌時の1932年以来90年ぶりという記録をつくってしまった。
NYダウの年初からここまで(5月末)の下落率は、14.0%。ナスダック総合指数は27.4%である。これまでは下落してもすぐ反発してきたが、反発力はじょじょに弱まり、下落幅を超えて反発することはなくなってしまった。
そんなNY株に比べ、日本株はそこまで下落はしていない。これまでNYダウと連動してきた日経平均は、連動して下落することが少なくなり、チグハグな動きを見せるようになった。
とはいえ、昨年9月のピーク時に比べると、約3000円は下落している。
貯蓄から投資へ「1億総株主」になれ
株式市場がこんな状態なのに、5月30日、自民党の経済成長戦略本部は、なんと「1億総株主」という提言を政府に申し入れ、岸田文雄首相はこれを受け入れた。
「新しい資本主義」「新・所得倍増プラン」政策の目玉に据えたのだ。
日本の家計は、欧米に比べて預金の割合が異常に高い。これを投資に向かわせようというのだ。岸田首相は、国会でこう言った。
「これまで眠り続けてきた1000兆円単位の預貯金を叩き起こし、市場を活性化するための仕事をしてもらいます」
「貯蓄から投資への流れを促進するため、NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)、iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)を拡充していきます」
これを受けて、さっそくテレビでは、NISA、iDeCoの解説や、投資の仕方の解説が始まった。経済評論家やアナリストからママさん投資家まで、専門家が続々登場し始めた。
しかし、30年にわたって経済低迷を続け、給料が上がらない国で、これはない。もう国には打つ手はない。あとは、個人で勝手に投資で稼ぎ、「所得倍増」をしてくれというのだ。
投資をするかどうかなど、個人の自由である。それを首相自らが勧め、貯蓄を止めて「株主になれ」などという国がどこにあるだろうか。
メディア、専門家には大局観がない
それにしても、株価が低迷している原因を、ズバリ指摘しないメディアや一部評論家にはあきれる。メディアは、株価の上下を、毎度、ウクライナ戦争、経済制裁、インフレの状況、企業業績、雇用情勢など、日々の事象で解説している。
さらに、「株というのは上がるときもあれば下がるときもあります」などと真顔で言う専門家(?)がいるので、開いた口が塞がらない。
これでは、なんの解説にもなっていない。
「株で利益を上げるには安いときに買って、高くなってから売る、これが原則です」
「株に投資するときに判断する方法としては、2つのやり方があります。1つは株価の動向(チャート)から判断する『テクニカル分析』。もう1つ は企業価値から判断する『ファンダメンタルズ分析』です」
「なにに投資するかですが、個別銘柄を選ぶのはリスクが高いので、市場全体に投資するのがいいでしょう。日経平均やTOPIX等の上場市場全体を対象とした指数(インデックス)に連動するETF(上場投資信託)がお勧めです」
こうした解説をテレビでいくら聞いても、株主になって、所得を倍増させることなどできないだろう。もっとも肝心な、大局観が抜け落ちているからだ。
(つづく)
この続きは7月7日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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