連載806 株価はもう上がらない!
世界経済は試練の「長期低迷」へ (一の下)
(この記事の初出は6月7日)
第2次大戦直後の最悪期より悪い
IMF(国際通貨基金)によると、コロナ禍のための世界の財政支援の総額は、2020年からの2年間で20兆ドルを超えている。その結果、先進国の政府債務残高のGDP比は2021年には120%を大きく超え、これは第2次大戦直後の1946年の124%と同レベルだという。
アメリカの状況は世界全体よりも悪い。連邦政府の債務残高のGDP比は130%を超え、第2次大戦直後の最悪期の119%を超えている。ドルの供給量(マネーストック=M2)は、過去10年間の平均量を5兆ドル近く上回り、アメリカのGDP総額の20%を超えた。
このドルの過剰が、NYダウをはじめとする金融資産のほぼすべてを値上がりさせてきたのである。
アメリカ人は日本人のように預貯金をしない。その結果、マネーは市場を駆け回り、資産価格の上昇、物価の上昇を招いた。ただし、現在の過激なインフレは、コロナ禍とウクライナ戦争による供給不足に大きく起因している。
したがって、各国の中央銀行は、いっせいに金利を上げ、金融政策を量的緩和から量的引き締め(QT:Quantitative Tightening)に転換した。
今後年間2兆ドルが市場から消える
QTでは、保有する債券の売却や、満期を迎えた債券を再投資しないなどして、市場に供給したマネーを吸収する。
FRBはすでにQTを始めているが、今月からは、月475億ドルを上限に、償還を迎えた国債などの再投資をやめることを始めている。そうして、9月には、その上限を月950億ドルに拡大する。
これにより、資産圧縮額は、年間で約1.1兆ドルとなるという。
すでに、イングランド銀行もカナダ中央銀行もQTを始めている。ECB(欧州中央銀行)も7~9月期の早い時期に資産の買い入れを終了し、QTに転換するとしている。
これらにより、全世界における資産圧縮額は約2兆ドルになると、アメリカのシンクタンク「アトランティック・カウンシル」は、試算を公表している。
2兆ドルが市場から消えれば、株価がどうなるか説明するまでもないと思う。
ところが、主要な中央銀行のなかでただ1行、日銀だけが、まだ量的緩和を続けている。相変わらず、日銀はETFを大量に買い入れている。
これで、日本円とドルとの金利差が拡大し、円安が止まらなくなっている。
「1億総株主」は「1億総玉砕」ではないか
そんなか、岸田政権が進めようとしているのが、「貯蓄から投資」だ。インフレが高じれば、マネーの価値は下落する。よって、預貯金はどんどん目減りするので、価値が下落しないなんらかの資産に投資しないと生活は苦しくなる。
しかし、その投資先が株式中心でいいはずがない。
ネットでは、「1億総株主」に対して批判の声が数多く上がっている。
「なにー! 1億総株主と来たか!」
「首相は庶民生活をわかっていない」
「1億総株主…そう言うなら投資費用くれ!」
「なんで国に金の使い道を指図されるんだ」
こうした声の極め付けは、「1億総投資でなく、1億総玉砕の間違いではないのか」というものだ。
いくら、投資はギャンブルではないとはいえ、現状では、その可能性はある。
(つづく)
この続きは7月11日(月)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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