連載813  円安、株安、賃金安の3重苦は止まるのか? 行動経済学の罠に落ちた日本(下)

連載813  円安、株安、賃金安の3重苦は止まるのか?
行動経済学の罠に落ちた日本(下)

(この記事の初出は6月14日)

 

緊張感がない首相はインフレに無頓着

 7月の参議院選挙まで1カ月を切った。今度の選挙は、日本の今後を決める大きな分岐点になるというが、まったく盛り上がっていない。なにしろ、岸田内閣は「岸田無策」といってなにもしていないが、なぜかそれを国民が支持している。支持率60%超えだから、この大不況の中なのに、まったく緊張感がない。
 野党、立憲民主党は政府・与党の対策について、生活者目線に欠けており、「岸田インフレ」だと批判し、内閣不信任案を出した。しかし、本来野党である維新、国民民主も反対に回り、完全否決されてしまった。
 立民の泉健太代表は、先日の国会で「まさに値上げの夏、全然対策が取れてないじゃないですか」と岸田首相に迫ったが、「欧米諸国においては物価高騰7%から8%と言われるなかで日本において2%台を維持している」と、切り返されてしまった。
 しかし、現状の値上げラッシュを見れば、この夏から秋にかけてインフレ率は欧米並みになるだろう。
 野党がしつこく要求しているのは、消費税の減税とガソリン税の二重課税の撤廃だが、岸田首相はこれまでまったく応じていない。

 

与野党ともバラマキで国民の要望に応える

 不思議なことに日本では、与野党が激しく争っているように見えるが、政策的には大差がない。言っていることはほとんど同じだ。「国民のための政治」などと言って、「あれをやる、これをやる」と言っているだけだ。
 たとえば、賃上げ。与野党とも最低賃金引き上げを含めて、賃上げを実現させると言っているが、誰がそれを払うのかという議論がない。もし、これが公的資金による補填なら、それは賃上げではなく、完全な社会主義政策だ。こんなものはインフレ対策にもならない。
 こうした賃上げ対策のほか、子育て・教育支援策まで、全部、公的資金をつかったバラマキである。
 結局、財源はどうするかとなると、国債発行に求めることになる。借金してなにかをすれば、そのツケは必ず国民に回る。
 日本の政治は「失われた30年」の間、ずっと、バラマキを続けてきた。根本問題である、少子化、高齢化、人口減を解決せず、合理的な経済運営を怠ったため、いまの惨状を招いてしまった。
 とはいえ、これは国民がそう望んだからである。国になんとかしてくれと要求し続けた結果だ。

 

国防費GDP比で2%増の財源は国債発行

 現在、ウクライナ戦争のせいで、国防費をアップさせることが、さかんに言われている。
 政府が経済財政運営の指針とする「骨太の方針」でも、防衛力を5年以内に抜本的に強化する方針が明記され、防衛費をGDP比2%程度に増額することがほぼ決まった。
 この国防費のアップは、安倍晋三元首相らが協力にプッシュし、与野党を問わず「国防強化」の必要性が言われた結果だ。その一方で、国防費のアップ分をインフレ対策や教育・社会福祉に使うべきという提唱もあったが、無視された。
 こんな斜陽の国で、なぜそんなにも勇ましいのかと思うほど、保守、右派の人々は勢いづいている。たとえば、自民党の高市政調会長は、12日のフジテレビ「日曜報道 THE PRIME」で、防衛費についてこう言った。
「防衛費の対GDP比2%というのは、あくまでも対外的に日本の強い意志を示すという意味で、必要なものを積み上げていったら、どちらにしても10兆円規模にはなっていく」
 そうして、その財源を問われると、国債発行だと述べた。となると、それは「戦時国債」と同じではなかろうか?

(つづく)

この続きは7月20日(水)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 


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