連載816  デジタル庁ができてもデジタル化できず。 「デジタル後進国」はいつまで続く (中)

連載816  デジタル庁ができてもデジタル化できず。
「デジタル後進国」はいつまで続く (中)

(この記事の初出は6月21日)

 

トップも退任、民間出身職員も退職

 ウクライナ戦争など大事件が相次いでいるので、あまり大きく報道されないが、デジタル庁の迷走ぶりは目に余る。
 なにしろ、事務方トップに就任した石倉洋子デジタル監(73)が4月いっぱいで退任してしまった。体調不良が理由というが、そもそもデジタルのエキスパートでない人間、しかも高齢者がトップに立つこと自体がおかしかった。
 石倉洋子氏はマッキンゼー出身の経営学の権威で、技術畑の人間ではない。世界をリードしたソニーが、技術畑でない出井伸之氏(先ごろ死去)をトップにしてたちまち衰退したことを見ればわかるように、この人事は間違っていた。
 石倉氏のトップ退任と併せて報道されたのが、民間出身の職員の大量退職である。
 デジタル庁は、各省庁からデジタル関連の仕事をしていた職員約400人と、民間出身の職員200人を集めて、昨年9月に発足した。つまり、寄せ集めのため、なかなかまとまらず、誰がなにをするのかも明確でなかったため、昨年暮れの時点で、嫌気が差した民間出身者が何人も退職していた。
 この流れは今年になっても止まらず、石倉氏のトップ退任と併せて、報道されることになったのである。

 

内部アンケートが暴露する職場環境

 5月1日付けの共同通信の配信記事『デジタル庁職員、職場に不満「激務」「風通し悪い」』は、民間出身の優秀な職員が退職する背景になった「内部アンケート」の中身を伝えている。
 このアンケートは、デジタル庁が自らの職場環境を把握するために、昨年11~12月に行ったもので、職員の85%、約550人が回答した。その回答は、ほとんどが不満の表明で、「業務が多すぎる」「風通しが悪い」などというコメントに満ちている。デジタル人材にとっては、非効率な作業が耐えられないことがうかがえる。
 さらに、職員の状況に関して、「やる気を失っている若手が非常に多い」「職員がどれだけ日々つぶれているか、来なくなっているか幹部は把握しているのか」などのコメントがあったという。
 ここからうかがえるのは、省長出身の職員が民間出身のデジタル人材に多くの業務を任せ、それに民間出身の職員が耐えられなくなっているという事実だ。

 

「事業所データ整備事業」が突如停止に!

 デジタル庁の迷走を象徴するのが、この3月~4月にかけて、突如としてデジタル庁が目玉政策の1つに据えてきた全国の事業所のデータの整備事業を停止したことだ。
 デジタル化を促進するには、経済活動を行っているあらゆる事業所のデータを統一、整備する必要がある。そのため、デジタル庁では、パイロットシステムを構築・運用するためのベンダーを募集した。
 この案件は4分野に分かれ、それぞれベンダーを決めて進行してきたが、5月末の納品を待たずに中止してしまったのである。
 牧島かれんデジタル相は、記者会見でその事情を問われ、こう答えている。
「委託調査事業などで当初想定したユースケースが実務レベルでは成立し得ないことが2021年11月に判明した」
「2021年11月からは、有識者会合からの提言を参考に、より上位である法人や事業主のデータ整備を優先する方針変更を検討した。しかし検討を進めるとこれらのデータ整備よりもさらに優先すべき課題があることが判明した。より根本的な検討が必要となり、運用コストが発生するシステム調達は中断すべきだと決断した」
 要するに、統一的なレジストリがつくれないのである。デジタル化の根本であるレジストリができない。「そんな馬鹿な!」と思うが、それが日本という国ということなのだろう。

(つづく)

この続きは7月25日(月)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 


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