連載823  ロシアは必ず負けて衰退する! フィンランド冬戦争・継続戦争の教訓② (上)

連載823  ロシアは必ず負けて衰退する! フィンランド冬戦争・継続戦争の教訓② (上)

(この記事の初出は6月29日)

 

首都ヘルシンキを目指して侵攻開始

 

 1939年11月30日のソ連軍によるフィンランド侵攻は、今回のウクライナ戦争とそっくりである。侵攻以前、ソ連はフィンランドとの国境地域に大軍を終結させていた。そして、一気に国境を突破し、フィンランドの首都ヘルシンキを目指す作戦を立てていた。
 この作戦を実行する前、ソ連は、国境でフィンラン兵がロシア兵に発砲したという言いがかりをつけた。いわゆる「偽旗作戦」である。
 正確な数は定かではないが、戦記本や資料などによると、ソ連軍は23個師団45万人の兵士と、火砲1880門、戦車2385両、航空機670機をもって、フィンランド国境全域で侵攻を開始した。もっとも兵力を集中させたのはカレリア地峡の国境地域で、その兵力は24万人、戦車は1000両に達した。カレリア地峡を突破すれば、ヘルシンキは目と鼻の先である。
 これに対して、この地域のフィンランド軍は14万人、戦車はわずか60両だった。ソ連軍との差は歴然だから、戦争は早期で終結すると、スターリンは勝利を確信していた。
 しかし、驚くべきことに、フィンランド軍は善戦し、ソ連軍の進撃を食い止めたのである。ウクライナ軍が首都キーウを目指して進撃するロシア軍を食い止めたように、フィンランド軍は必死に抵抗してヘルシンキを守ったのだ。

 

腐敗政権から国民を解放するという茶番劇

 ソ連は開戦3日後の12月2日、占領した国境沿いの町テリヨキに、傀儡政権の「フィンランド民主共和国」を樹立した。そうして、今回の軍事侵攻は、フィンランドの労働者階級を守るためだと訴えた。ソ連は、対フィンランド戦争を、フィンランドの腐敗した政権から、国民を守るための「解放戦争」としたのだ。
 これは、プーチンがウクライナ戦争を戦争とは呼ばず、「軍事侵攻」と規定して、親ロシア派の住民をネオナチから守るためだとしたのとそっくり同じ理屈である。
 傀儡政権の首班には、1918年のフィンランド独立戦争後の内乱に破れてソ連に亡命していた共産党員クーシネンが選ばれた。クーシネンはフィンランド国民に向かって演説し、ソ連にフィンランド解放のための正式な援助要請を行うと宣言した。ソ連はこれを受け入れ、クーシネン政権をフィンランドの正統政府と承認し、相互援助条約が結ばれた。
 まさに、まったくの「茶番」だが、これはプーチンがウクライナでやろうとしていたことと同じだ。もちろん、この茶番劇は成功せず、フィンランド国民は一丸となってソ連軍の侵攻に抵抗した。スターリンは、情勢判断を誤ったのである。

 

国際社会の全面的なフィンランド支援

 ウクライナ戦争では、西側諸国、いわゆる国際社会がウクライナ支援に回ったが、フィンランド冬戦争でも、国際社会はフィンランド側についた。
 アメリカではルーズベルト大統領が、ソ連の侵攻を「フィンランドの強奪である」と述べ、英国では、チャーチル首相が「高潔な人々への卑劣な犯罪」と呼んだ。フランスはソ連の通商代表部を閉鎖させ、イタリアは駐ソ大使をモスクワから召還した。
 ウクライナ戦争でもそうだったように、義勇兵の募集も行われ、さらに武器・弾薬の支援も行われた。義勇兵には、スウェーデン、ノルウェー、デンマークなどの北欧諸国のほか、英国、イタリア、さらにアメリカ、カナダ、オーストラリアなどからも申し込みがあった。
 世界に散っていたフィンランド人も、有志は祖国に戻って、国防軍に参加した。
 英国は戦闘機42機と爆撃機24機、フランスは戦闘機30機を提供し、欧米各国は大量の武器、弾薬をフィンランドに送った。ソ連は欧米諸国から、徹底的に嫌われていたのである。

 

(つづく)

この続きは8月3日(水)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 


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