連載834 女が逃げ出し男が余る
「超独身社会」が地方から日本を崩壊させる (下)
(この記事の初出は7月5日)
地方は女性が少なく空前の「男余り」
「未婚化が進んでいる」と聞くと、ついつい、「若者の恋愛離れ」「若い男性の草食化」などを連想してしまう。「婚活」という言葉も浮かぶ。
しかし、そんなことが言われていたのは、10年以上前のことで、いまの大きな問題は、そんなことではない。そもそも、若い男性の場合、結婚したくても相手が周囲にいない。現在、東京への若い女性の流出に見舞われている地方で起こっているのは、空前の「男余り」現象である。
かつて、日本に地域社会というものあったとき、結婚は「お見合い結婚」が多かった。それは、若い男女の比率がほぼ同じだったからだ。
しかし、1965年に「お見合い結婚」の比率は「恋愛結婚」と逆転し、いまや全結婚に占める割合は5%程度だという。
現在、人口減に見舞われている地方では、自治体が積極的に「出会いの場」をつくったり、「婚活支援サービス」を行ったりしているが、そもそも、参加する若い女性が少ない。SNSを通した出会い、マッチングアプリによる出会いもあるが、いくらツールがあろうと女性が少なければ無意味だ。
2040年、独身人口が全人口の47%に
最近、出版された荒川和久・中野信子『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)は、日本がどんどん「未婚社会」になっていく現実を、データを基に克明に描いている。
荒川和久氏は、「独身研究家」として有名だが、彼がこれまで警鐘を鳴らしてきた「人口減社会=独身社会」の深刻さを、政治家は無視し続けてきた。
この本のなかで荒川氏は、未婚率の上昇は今後も続くだろうとし、2040年には独身人口が全人口の47%に達してピークを迎え、人口の約半分が独身という「超独身社会」が到来するとしている。2040年の日本の15歳以上の人口が約1億人。そのうち、独身が約4600万人で、有配偶が約5200万人というわけだ。
荒川氏は、この現実は超高齢化より深刻だと指摘する。というのは、2040年、高齢人口は約3900万人と推定されるが、それよりも独身の約4600万人のほうが多いからだ。
さらに、高齢者のうち、独身男性と独身女性を見ると、高齢独身男性は約490万人、高齢独身女性は約1260万人となり、圧倒的に高齢独身女性が多いという。これは、男女の平均寿命、平均余命が大きく違うから当然ではあるが、やはり問題は深刻だ。
生涯未婚率1位は東京ではなく高知
昨年暮れに話題になったことに、生涯未婚率ランキングで高知県が東京都を抜いて1位になったというニュースがあった。2015年の国勢調査では東京都が1位だったが、2020年の調査では、高知県が20.3%となり、東京都の20.1%を0.2%とはいえ上回って1位になったのである。
その理由について、「週刊女性」(2022年2月15日号)記事『生涯未婚率が過去最高に、東京を抜いて1位になった「高知県女子」“おひとり様”の背景』のなかで、『ニッセイ基礎研究所』の人口動態シニアリサーチャー、天野馨南子さんは、次のように語っている。
「結婚が集中する年齢は20代後半。そうした若い女性の多くが故郷を離れ、東京などの都市部へ移り住んでいます。
実際、高知県ではコロナ前の10年間で男性の1.5倍の女性が県外へ流出超過しているのです。適齢期の女性がいなくなるわけですから、当然、新規の結婚が発生しづらくなります。」
「加えて高知の場合、離婚率も全国トップ。一家の長男がいちばん偉くて、女性は家事や育児をこなしつつ家計補助的に働けばいいという“長男文化”も根強く残っています。結婚に夢を持てなくても不思議ではありません」
(つづく)
この続きは8月18日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
→ 最新のニュース一覧はこちら←