連載837 元首相暗殺が暗示する このままでは日本は「誰も来ない国」になる! (中)
(この記事の初出は7月12日)
スリランカ人女性に「嫌なら国へ帰れ」
すでに、コロナ禍以前から、日本は十分に貧しかった。メディアが取り上げなかっただけである。日本の底辺社会の貧困は確実に広がり、日本の若者が底辺労働を嫌ったため、日本は外国人労働者を受け入れざるをえなくなった。
その象徴が技能実習生である。
つまり、日本の政治家と国民は、彼らに日本人の嫌がる仕事をあてがい、日本人よりも安くコキ使うことを是認したのだ。
20年前、いや10年前ぐらいまでは、それでもこうした政策は成り立った。アジアの最貧国と日本との差はまだまだ十分ににあったからだ。
しかし、いまやその差は縮小し、近い将来なくなろうとしている。そのため、日本に来た外国人労働者たちは、次々に告発、反乱を起こしている。
2020年10月、群馬県内の農業法人で働いていたスリランカ人女性が、雇い主から常習的に暴行を受けていたと告発した。その過程で、この法人の社長の息子の音声データが公開されたが、そこに録音されていたのは、「嫌だったらスリランカに帰れ」という怒鳴り声だった。
群馬県庁で記者会見したスリランカ人女性は、このように言った。
「日本は優しい安全な国というイメージでした。しかし、働き先で暴力を受け、日本ってこういう国なのかと思うようになってしまいました」
こんな国なら悪いことをしてもかまわない
こうした例は、最近は枚挙にいとまがない。技能実習生はベトナム人が多いが、彼らはベトナムでももっとも貧しい地域の出身で、多くが借金を背負って来日している。そのため、働いて1日でも早くと借金を返し、家族に仕送りしようとするが、最近ではそれができない。
「日本に来れば仕事があって稼げると聞いてきたが、それは嘘だった」「日本人は人種差別しないと言われたが、職場では殴る蹴るで、人間扱いされなかった」
彼らは、できることなら母国で家族と一緒に暮らしたい。しかし、母国にいては貧困から抜け出せない。そのため仕方なく、借金を背負ってまで日本に来たが、そこは言われていた“稼げる国”“夢が実現できる国”ではなかったのだ。
最近聞いた話でショックだったのは、犯罪を犯して逮捕されたベトナム人技能実習生の話だ。彼は、「日本人はいい人たち、日本はいい国だと思っていた。しかし、それはウソだった。それなら、悪いことをしもかまわないと思った」と、警察に供述したという。
偽りの身分で入国させ働かせる欺瞞
いまの日本社会は、間違いなく100万人を超える「隠れ移民」の人々の労働力によって維持されている。コンビニや居酒屋に行けば、店員の多くがベトナムやネパールなどの外国人だ。いっときは中国人も多かったが、いまは、少なくなった。
彼らは、みな名目上、「留学生」「技能実習生」という立場で日本に来ているが、その実態は「労働移民」である。しかし、これを日本政府はわざと認めていない。大量の若年労働者を偽りの身分で入国させ、国内で働かせる一方で、「移民は受け入れない」というポーズを取っているのだ。
この人身売買に近い技能実習生という制度は、米国政府も非難しているうえ、国連でも問題視されている。ところが、いっこうに改善されず、さらに「特定技能」という在留資格を新設するなどして外国人労働力をかき集めている。
特定技能には5年の就労が認められる「1号」に加え、日本での永住に道を開く「2号」がある。しかし、2号の導入は見送られており、実現する気配すらない。
日本はすでに移民受け入れ大国
コロナ禍は世界の状況を大きく変えたが、確実に変わらないことがある。それは、この先、世界人口の減少が始まることだ、その先駆けとして、多くの先進国で出生率が落ち、人口が維持できなくなっている。
これを手短に解消するには、移民を受け入れるしかない。
そのため、欧州をはじめとした多くの先進国が、移民政策を取り、移民獲得競争を繰り広げてきた。この競争は、今後ますます激化し、優秀な移民は奪い合いになろうとしている。
じつは、日本も同じで、技能実習生を見ればわかるように、事実上移民政策を取っているのだ。
実際のところ、日本に在留する外国人はコンスタントに増え続けている。法務省の在留外国人統計によれば、2020年12月末現在の在留外国人総数は288万7000人に上る。この10年間で、なんと75万人も増加している。
しかし、移民を移民と認めず、その待遇がここまでひどければ、もうこれ以上、移民はやって来なくなるのは間違いない。
(つづく)
この続きは8月25日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
→ 最新のニュース一覧はこちら←