連載838 元首相暗殺が暗示する このままでは日本は「誰も来ない国」になる! (完)
(この記事の初出は7月12日)
SNSで拡散する日本の劣悪な環境
私の知人に、ミャンマーで学校を経営し、現地の貧しい女性の教育に熱心に取り組んでいる男がいる。
彼は、「ミャンマーの若い女性たちは日本を豊かで進んだ国だと思い、日本に行って稼ぎたいと思っている。だから、授業料をためて日本語を習いに来ている」と言う。
日本では介護人材が不足しているから、彼女たちは日本に行けば引く手数多だと考えているという。しかし、その労働環境が劣悪なことを知らない。
ただし、知らないのはいまやミャンマーやラオスぐらいで、ベトナム、フィリピン、インドネシアなどでは広く知られるようになった。
これは、ネット社会の威力である。
フェイスブックなどのSNSでは、外国人労働者のグループがいくつもあり、常に情報発信・交換が行われている。
これにより、ブラック企業、ブラック職場は、バレバレになっている。
もちろん、賃金の低さ、待遇の悪さなど、ネガティブな情報は、あっという間に拡散する。現在、SNSで日本の評判は落ちる一方になっている。
移民供給国が移民受け入れ国になる
いまだに、日本政府は移民を本格的に受け入れれば、どっと移民が押し寄せると考えている。多くの日本人も、同じように考えている、なかには、移民が増えれば犯罪も増え、治安が悪化するという事実ではないことを信じている者もいる。
現在まで、日本に労働力としての「偽装移民」を送り出してきた上位国は、中国78万人、ベトナム44.8万人、韓国42.6万人である。
しかし、これらの国も、早晩、日本と同じように、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少に直面する。となれば、もはや日本に移民を送り出すわけはなく、逆に移民受け入れ国に転じるだろう。
すでに韓国はそうなってきている。
となると、日本は今後、移民をめぐって、こうした国々と競争しなければならい。そうしなければ、移民も来てくれない国になる。技能実習の名を借りて、偽装移民を受け入れてこき使える時代は、確実に終わろうとしているのだ。今後は、アジアの人々を見下すことなく、きちんと理解・リスペクトしない限り、手痛い反動にあうだろう。
シンガポールの介護人材獲得政策
最近のシンガポールの報道によると、シンガポールは外国からの看護士・介護士の移民を獲得するために、それ相応の給与と研修と家族連れでの永住権など与える方針を決めたという。
以下、報道された条件と待遇を列記すると、日本とのあまりの違いに、開いた口が塞がらない。
語学要件なし、入国前、入国後の研修は受け入れ側が負担、1人でも家族込みでも永住権を付与、待遇・報酬は世界最高レベルというのだから、周辺国からあっという間に人材が集まるだろう。
日本も介護人材を数年前から受け入れているが、その条件に「日本語検定4級」があり、さらに研修費は自己負担で、報酬・賃金は世界最低レベル、永住権も家族込みでの永住権も検討外というのだから、もはや誰も来ないだろう。なぜ、日本語検定に執着するのか、私にはまったくわからない。
いまや、介護人材は、世界中で奪い合いになろうとしている。アメリカでも欧州でも、高齢化が進んでいるので、今後は獲得競争が激化する。現在、介護人材を送り出している国は、アジアではフィリピン、 ベトナム、 インドネシア、ミャンマーなどで、インドやバングラデッシュ、アフリカ諸国、 中南米諸国も供給国となっている。こういった国々をターゲットに争奪戦が激化している。
しかし、日本政府にそんな認識はない。
狭い範囲での常識を捨てるとき
HSBCが行っている海外駐在員の生活調査レポートに、「海外駐在員が住みたい、働きたい国ランキング」がある。HSBCの調査だから、ターゲットは中流以上の海外駐在員で、労働移民の感覚とは違うかもしれないが、共通するところは多いと思う。
このランキングによると、日本は33カ国中32位である。
1位はシンガポール、2位は香港、3位はアメリカ、4位はスイスで、日本は中国(14位)やドイツ(17位)に大きく引き離されているばかりか、タイ(25位)や韓国(28位)よりも下だ。日本に住む海外駐在員にとって厳しいのは仕事や子育てで、「収入」「ワークライフバランス」と、子どもの「友だちづくり」「教育」はいずれもほぼ最下位である。
日本には、まだまだいいところがいっぱいある。それを活かし、世界からヒトを集めなければ、今後も衰退し続けていくだけになるだろう。
政治家も国民も、自分たちの狭い範囲での常識を捨て、いま世界で起こっていることを素直に認めれば、おのずから「解」は見えてくる。
ともかく、政治家が真剣に取り組まなければ、本当に日本はダメになる。参議院選で圧勝した自民党に、はたしてそれができるかどうか。
そう考えていくと、絶望的になるので、いまはもうなるようにならないとしか思わなくなった。このまま、日本がどんどん貧しくなっていく。そして先進国から転落する。そういう私の予測がすべて外れる未来が来てほしい。
(了)
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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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