7月15日〜31日、リンカーン・センターとアジア・ソサエティーの2会場で、「ニューヨーク・アジアン映画祭」が開催された。
同映画祭は、アジア映画の普及とアジア映画の多様性と素晴らしさを体験する機会を提供することを目的に開催されているが、新型コロナウイルスの影響で2020年はオンライン開催、21年はハイブリッド開催となっていた。今年はコロナ後3年ぶりの完全対面開催となり、合計67作品が上映されたほか、20周年を記念して過去最多のゲストが参加した。
日本からは、俳優の阿部寛がアジアで最も活躍する俳優に与えられる「スター アジア賞」を日本人で初めて受賞。出演作の「異動辞令は音楽隊!」がワールドプレミア上映された。 本紙では、同映画祭で上映された日本の4作品の監督、俳優に話を伺った。
親密な他人 Intimate Stranger
監督 中村真夕さん
「主人公は大人の女性。女性が観て楽しめる作品に」
Q. 本作品のコンセプトは何ですか?
女性が子を持つと「母親になり女性ではなくなる」みたいなことに対して疑問を持っていました。また日本映画には、若い女性か若い男性、もしくは中年男性が主人公の映画はたくさんありますが、中年女性が主人公の映画がほとんどありません。主人公が女性で、女性が楽しめる映画が少ないので、30歳以上の女性が楽しめることを念頭においています。
Q. 脚本はいつ頃作られましたか?
一作目の「ハリヨの夏」(2006年公開)の制作を終えたあたりから書き始めましたが、これまで様々な理由で成立せず、2020年の暮れから撮り始めました。日本の映画やテレビでコロナ下を描いているものがほとんどなくて、逆にコロナを正面から描いた方が良いのではないかとプロデューサーとも相談して、もともと出来ていたストーリーをコロナ下の設定にしました。外ではマスクで身を守って、家の中でやっと人と親密になれるみたいな、テーマがより強調された気がします。
Q. 主演に、黒沢あすかさんと神尾楓珠さんを選ばれた決め手は?
黒沢さんは「六月の蛇」(2002年公開)という映画ですごく鮮烈な印象があって、私自身ファンでした。セクシーな役、普通のお母さん役、狂気の女も演じられる表現力の幅広い方なので、今回のような難しい役でも出来る方だと思い、早めに決めてオファーしました。雄二役を神尾さんにお願いすることにしたのは、彼がイケメンなだけではなくて、影がある、謎めいた雰囲気を持っているところが決め手でした。映画の中では1/3ぐらいマスクをしてるので、目力がないと何も伝わらないので、目力が強いところも決め手になりました。
Q. 今後はどういった作品を作られる予定ですか?
実話をベースにした話が多いと思います。今やろうとしている企画は、ノンバイナリージェンダーという、自身の性別の認識が男性か女性かどちらにも当てはまらない人の話で、実際にドキュメンタリーを撮りました。その人の人生をフィクションにして日本でやろうとしたら、プロデューサー見つからず、すごく苦労して、今はアメリカで進めています。
Q. 中村監督は、ニューヨークのコロンビア大学大学院を卒業されて、ニューヨーク大学の大学院で映画を学ばれたそうですね。今回、ニューヨークの映画祭でご自身の作品が上映されるのはどんなお気持ちですか?
当時、この映画祭には観客として観に来たり、フィルムメーカーの人たちとワークショップをやっていました。今回、その当時の仲間や友達が来てくれて同窓会みたいだし、観客として行っていたところにフィルムメーカーとして戻ってこられて嬉しいです。
Q. 中村さんにとってニューヨークはどういう場所ですか?
第二の故郷ですね。日本だけにずっといると息苦しく感じる時があるので、日本にいづらくなった時に戻ってきたい場所です。いろいろな意味でハードな街ですけど、他の人がどうしようと誰も何も気にしないのが楽だなと感じます。自由でいられる場所です。(7月21日取材)
中村真夕(なかむら まゆ)
映画監督、脚本家。16歳でロンドンに留学。ロンドン大学を卒業後、ニューヨークに渡る。コロンビア大学大学院を卒業後、ニューヨーク大学大学院で映画を学ぶ。2006年「ハリヨの夏」で監督デビュー。釜山国際映画祭コンペティション部門に招待される。「ナオトひとりっきり」(2014年)は、2015年のモントリオール世界映画祭ドキュメンタリー部門で上映された。続編「ナオトいまもひとりっきり2020」は、2021年山形国際ドキュメンタリー映画祭「ともにある2021」部門で上映される。脚本協力作品としては第45回エミー賞ノミネート作品「東京裁判」(NHK)29年度芸術祭参加作品がある。
親密な他人
行方不明の息子・心平を探すシングルマザーの恵(黒沢あすか)に、息子の居場所を知っているという青年・雄二(神尾楓珠)から連絡が入る。心平の行方をめぐって、二人は親子のような、恋人のような不思議な関係になっていく。しかし、二人には互いに言えない目的と秘密があった。第34回東京国際映画祭「NipponCinemaNow」部門正式招待作品。