第1回 小西一禎の日米見聞録 「日米のコロナ対策、何が違いを分けたのか?」
テレビに映し出されるマンハッタンのタイムズ・スクエア、大谷翔平選手が今シーズンも活躍するアナハイムのエンゼルス・スタジアム。米国在住の友人・知人によるインスタグラムやフェイスブックなどSNSへの投稿。マスク着用者はごく少数にとどまり、思い思いに夏を楽しむ様子を見るにつけ、新型コロナウイルスの流行「第7波」に見舞われ、35度を超える灼熱の炎天下でマスクの着用が続く日本との落差に愕然とする。
2020年2月、横浜港に停泊した大型クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号の船内で、700人以上が感染するクラスターが発生した日本。3月に感染爆発が始まった米国よりも先に、医学的・感染症学的、さらには行動経済学的などの知見を獲得する機会に「恵まれた」にもかかわらず、柔軟性に欠け、科学的根拠に乏しいと言わざるを得ないコロナ対策が、まるで思考停止に陥っているかの如く、継続されている。その答え合わせが、この期に及んで、世界最多となった新規感染者数になるとは皮肉である。
日本政府は当初、感染の早期終息を目指し、クラスター対策に全力を注ぎ、感染者の追跡調査に膨大な時間と労力を費やした。その過程で、感染者が特定され、誹謗中傷が寄せられるなどという事態が見られた。世界各国が次々と規模を拡大していったPCR検査は「偽陽性が出る可能性があり、信頼性に欠ける」などとして、むやみやたらに検査をする必要性を否定する空気感がはびこり、積極的に取り入れられなかった。
PCRに長蛇の列、検査キット入手は困難
街角にPCR検査場が立ち並ぶニューヨークに比べ、国内の検査態勢は今も決して十分とは言えず、流行する度に街中に長蛇の列ができるのは、何も珍しい光景ではない。自宅でできるセルフ抗原検査キット(体外診断用医薬品)を手に入れるのも極めて困難。ワクチン接種は自治体から送られてくるクーポンを受け取らないと、予約すらできない。CVSなどのドラッグストアに立ち寄り、気楽にワクチンを打てる環境とは大違いだ。
ニューヨーク市が運営する無料検査場では、陽性ならファイザーの飲み薬「パクスロビド」が無料で処方されると聞く。政府確保分に比べて、十分に投与が進んでいない日本の現状を踏まえると、ただただ羨ましい限り。コロナ感染が疑わしくなっても、対面形式の発熱外来は、朝イチの「電話予約」でほぼ埋まる。オンライン診療は、まだまだ普及しておらず、電話が繋がらない人の中には、病院に直接出向く人もいるという。
米国をはじめとする海外在住の人々は、日本入国時に必要とされる陰性証明書の取得準備、煩雑な手続きによる不便を今も強いられており、歯がゆく思っている人も少なくないのではなかろうか。空港での抗原検査で「陰性」であったとしても、タクシーを含めた公共交通機関の利用を禁じられた14日間もの自主隔離はさすがに撤廃されたが、今もなお、半ば国を閉じている状態に近い。第7波の感染爆発が続く日本から、空路で米国に入国しても陰性証明を求められないという、おかしな構図が浮かび上がっている。
国力を総動員して、立ち向かう
全米で感染拡大が始まった2020年3月当時、米国で暮らしていた筆者は、世界唯一の超大国がなりふり構わず、その持ちうる国力を総動員して、猛威を振るう「敵」に立ち向かう様を目の当たりにした。州や市に続き、政府が国家非常事態宣言を発出。セントラルパークに野戦病院が突貫工事で建設され、ハドソン川には巨大な軍の病院船が駆け付け、まるで戦時下を思わせた。
個人主義で知られる米国人が、公共の場でのマスク着用を義務付ける行政命令に対し、一部を除く大半の人が即座に従ったのには目を疑った。2020年末、多数の軍輸送機が完成直後のワクチンを載せ全米に飛び立ったのは、終わりの始まりではなかったか。片や、ワクチン獲得競争に敗北した日本は、完全に出遅れた。
全力で相対し、一気に叩き潰そうと試みた米国。感染流行が起こる度に、右往左往を繰り返し、その後も根拠なき楽観論に基づき、事後検証や態勢構築を怠り、ダラダラと同じことを繰り返す日本。この夏の現状を鑑みると、両国の考え方、行動形態には大きすぎるほどの開きがあると感じざるを得ない。
(了)
小西 一禎(こにし・かずよし)
ジャーナリスト。慶應義塾大卒後、共同通信社入社。2005年より本社政治部で首相官邸や自民党、外務省などを担当。17年、妻の米国赴任に伴い休職、妻・二児とともにニュージャージー州フォートリーに移住。在米中退社。21年帰国。米コロンビア大東アジア研究所客員研究員を歴任。駐在員の夫「駐夫」として、各メディアへの寄稿・取材歴多数。「世界に広がる駐夫・主夫友の会」代表。執筆分野は、キャリア形成やジェンダー、海外生活・育児、政治、メディアなど。著書に『猪木道――政治家・アントニオ猪木 未来に伝える闘魂の全真実』(河出書房新社)。
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