連載845 放置される温暖化、気候変動リスク
東京もニューヨークも水没の可能性がある!(中2)
(この記事の初出は7月26日)
日本などまだいい、耐えられない中国の猛暑
15年ほど前、娘が南京、北京に住んでいたころ、私はよく南京を訪れ、夏のあまりの暑さに閉口した。市内を吹き抜ける風は熱風で、ちょっと歩けば汗だくになった。
それでも気温は35度以下。「これくらいフツーですよ」と、地元の市民は慣れた様子だった。しかし、いまや40度が常態化しようとしている。
南京から長江を下ると長江デルタが開け、そこに注ぐ支流のひとつ黄浦江の両岸に、上海の街がある。海のそばなので、上海は南京より涼しいが、今年は上海でも40度以上を記録した。この150年間で、上海で40度以上を記録したのは15日しかないという。
ゼロコロナ政策を取っている中国では、上海は一時期、完全にロックダウンされ、街中で大規模なPCR検査が行われた。しかし、防護服の検査員が熱中症で続々と倒れ、検査にならなかったという。
倒れた検査員が救急車で運ばれていく姿が、SNSで拡散した。
ウクライナ戦争で大量の温室効果ガスが排出
このように世界中が猛暑に見舞われるなか、いまもっとも懸念されるのが、ウクライナ戦争の影響で、さらに温暖化、気候変動が進んでしまうことだ。
なにしろ、戦争では大量の化石燃料が燃やされ、温室効果ガスの放出量は半端ではない。
ウクライナの上空を飛び交う戦闘機や大地を走る戦車は、湯水のように化石燃料を大量に燃やしている。また、破壊されたインフラ施設などからは、大量の二酸化炭素が放出される。ミサイルの燃料からも大量の温室効果ガスが排出される。
しかし、今日まで誰もこの戦争でどれほどの二酸化炭素が排出されたかは知りようもない。EU内の環境オブザベートリーが推計を行なっているだけだ。一説によると、すでに第二次大戦中の1年分の排出量を上回ったとも言われている。
ロシアがこのまま侵略を続け、ウクライナが西側からの武器の支援を受けて戦う限り、これまでの温暖化の取り組みはすべて無駄になるだろう。
軍事関連排出量は全体の6%と推計
軍隊ほど、温室効果ガスを大量に排出する組織はない。『ワイヤード』(2022年3月12日)の記事によると、アメリカ軍は2017年に1日あたり27万バレルの石油を購入し、炭化水素の唯一最大の機関消費者となっているという。
温室効果ガスの排出量に関しては、各国が国連に報告することになっているが、軍事関連の排出量に関しては「そのほか」に分類している国が多く、実際にどれだけあるかはまったくわかっていない。
日経新聞記事『温暖化ガス削減、軍事抜け穴「排出の最大6%」試算も』(2022年3月21日)では、英国の気候科学者スチュアート・パーキンソン氏の2020年の報告書が紹介されていて、そこには世界全体の排出量(約500億トン)の最大6%が軍事関連となっているという。
もちろん、このパーセントは戦争があればさらに上昇する。
いずれにせよ、戦争は人類になにももたらさないばかりか、温暖化と気候変動を助長させることで、さらに多くの人命を奪い、場合によっては、人類を滅亡に導く。
世界中の専制国家のリーダーたち、とくにプーチンのような男が温暖化や気候変動を軽視しているのは、とんでもないことだ。
(つづく)
この続きは9月7日(水)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。