連載846  放置される温暖化、気候変動リスク 東京もニューヨークも水没の可能性がある!(下)

連載846  放置される温暖化、気候変動リスク
東京もニューヨークも水没の可能性がある!(下)

(この記事の初出は7月26日)

 

それでも明るい兆しがないとは言えない

 ウクライナ戦争が始まってじきに半年。世界の政治家たちは、すっかり温暖化と気候変動に関心がなくなってしまったように見える。ロシアが石油資源を武器に西側に譲歩を迫ったことで、「エネルギー安全保障」に関心が移ってしまったと言える。
 その結果、前回の国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)で合意された内容は、実行が遅れるのは確実となった。
 また、戦争が長引くことがわかってからは、政治家ばかりか、一般人の関心も薄れた。とくにアメリカでは、目の前のインフレが最大の問題となり、ウクライナの悲劇は二の次になっている。
 グリーンニューディールを進めると宣言したバイデン大統領の支持率は落ちっぱなしで、温暖化、気候変動対策に懐疑的な共和党右派の勢いが復活している。いまだに、「単なる気候だ」と一笑に伏したトランプ前大統領の人気は高い。
 ただし、逆の見方をすると、EUとアメリカがロシアの化石燃料を拒絶することで、再生可能エネルギーの導入が加速する可能性がある。
 時間はかかるだろうが、EUがロシアからのエネルギー供給を完全に絶つためには、いっそうのクリーンエネルギー化を進める必要があるかからだ。これが、ウクライナ戦争がもたらした唯一つの明るい兆しだ。

 

2100年には3.2度上昇するのは確実

 ここで、私たちは、IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change:気候変動に関する政府間パネル)の「最新報告書」(2021年8月発表)を読み返す必要がある。
 なぜなら、この報告書において、地球温暖化、気候変動の原因は人類活動と規定され、気温上昇がなにをもたらすかが、より明確に示されたからだ。
 人類の二酸化炭素の排出は拡大を続けており、すでに地球の平均気温は、産業革命前と比べて1.1度上昇している。
 このままでは20年後に1.5度を越え、2100年には3.2度上昇するのは確実。つまり、各国がパリ協定で合意した「2℃未満、できるなら1.5℃にとどめる」という目標は達成できないと、この報告書は強く警告した。
 しかも、報告書は「政策決定者への要約」と名付けられ、各国に対策を求めている。
 いまだに、地球温暖化を陰謀とする説が根強いが、この報告書は、どう見ても科学であり、裏付けがある。また、最近の異常気象は、温暖化が進んでいることを端的に物語っている。もはや温暖化を疑う意味はなく、なんとか、この状況を改善しなければならいときにきている。
 そこで、報告書は、ともかくも、2030年までに二酸化炭素の排出量を半分に減らし、2050年までに温室効果化ガス実質ゼロ(ネットゼロ)を達成する必要があるとしている。
 ネットゼロを実現するには、まずクリーンエネルギー技術の利用で可能な限り温室効果ガスを減らす。そうして、残る排出を炭素隔離貯留技術によって回収する、もしくは植林によって吸収するなどの取り組みが必要となるという。

 

なにをしようと海面は上昇し続ける

 というわけで、IPCCの最終報告書は悲観に満ちているが、もっとも悲観的に示したのが「海面上昇」である。これまでの報告書ではあいまいだった判断が具体的になり、たとえば、グリーンランドや北極圏の氷床が溶けるとどういう影響があるのかを、数値を示して述べている。
 複数のシナリオが想定されているが、2100年までに1.5度に気温上昇を抑えられたとしても、海面は長期的には2、3メートルは上昇するという。最悪シナリオでは、2150年までに最高で数メートルも上昇する可能性があるという。
 もちろん、もっと低く抑えられる可能性もあるとしているが、悲しいのは、なにをしようと海面上昇は続くとしている点だ。その影響で、以前は100年に1度だけ起きていた現象が、今世紀半ばには10年に1、2回は起きるようになるというのである。
 地球の長い歴史で見ると、海面上昇(海進)と海面低下(海退)は何度も繰り返し発生している。歴史的にもっとも近い「平安海進」では、約1~1.5メートル海面が変動している。7世紀初頭の奈良時代の海面は、現在より約1メートル低かったが、平安時代を通して上昇し、12世紀初頭には現在の海水面より約50センチメートル高くなっている。
 しかし、この「平安海進」は約500年を通してであり、100年の間に2、3メートルという猛スピードとなると、その対処は追いつかない可能性がある。

(つづく)

この続きは9月8日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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