連載847 放置される温暖化、気候変動リスク
東京もニューヨークも水没の可能性がある!(完)
(この記事の初出は7月26日)
500万人以上の大都市の3分の2が危機に
IPCCの最終報告書とは別に、これまでいくつかの「水没する都市や地域の予測が報告されている。ここに、そのすべてを紹介できないが、世界の名だたる大都市の多くは海に面しているため、そのリスクは高いと言わざるをえない。
東京はもちろん、ニューヨーク、上海、ムンバイなども水没リスクにさらされている。
温暖化、気候変動による農産物の凶作による食糧危機、気温上昇による熱中症リスクなどと並んで、居住地域が失われる水没リスクは大問題である。
たとえば、データ分析調査を提供する「The Swiftest」の共同創業者マシュー・H・ナッシュ氏は、今年の3月、海面上昇と頻発する洪水によって、世界の36都市が浸水することになるという予測を発表している。
それによると、水没リスクの1位は、なんと東京である。以下、2位ムンバイ、3位ニューヨーク、4位大阪、5位イスタンブール、6位コルカタと続く。
また、CNBCは昨年、2070年までの気候変動による水没・洪水リスクがもっとも大きいアジア10都市のリストを発表している。それによると、中国の天津、上海、広州がトップ3となっている。
近年、アジアでもっとも早く水没すると話題になったのが、インドネシアのジャカルタだ。ジャカルタは、昨年12月、記録的豪雨によって大洪水が発生し、一部地域が2.7メートルも水中に沈んでいる。
国連の人口統計によると、世界人口の約10%、7億9000万人が海岸線沿いに住んでいる。私も横浜に住んでいるので、その1人だ。世界の大都市の多くは海沿いにあり、人口500万人以上大都市のうち約3分の2が水没の危機にさらされているという。
東京とニューヨークが水没する日が来る
2019年の大ヒット映画『天気の子』(新海誠・監督)では、2021年の東京が水没する情景がリアルに描かれた。これは、「何年間も雨が降り続く」という想定での話だったが、このまま気候変動が続けば、それが現実になる可能性はある。豪雨や高潮に、海面上昇が重なれば、東京ほどリスクの高いところはない。
とくに江戸川区は、荒川と江戸川に囲まれ、海面よりも土地が低い「海抜ゼロメートル地帯」が7割を占める。江戸川区、江東区、荒川区などは、超大型の台風で川の氾濫や高潮が発生すれば、ひとたまりもない。これは、“水の都”とも言われる大阪も同じだ。
それなのに、豊洲などのベイエリアにはタワマンや高層マンションが立ち並び、販売も好調と言うから、私には信じられない。
東京と同じくニューヨークの水没リスクも高い。
最近では、たびたび大型ハリケーンに襲われ、高潮の被害にあっている。また、海面上昇も観測されていて、水没リスクは日々高まっている。
3月に英科学誌『ネイチャー・ジオサイエンス』(Nature Geoscience)(電子版)に発表された論文によると、ウォール街は今世紀中に、頻繁に水没するようになるという。なにしろ、マンハッタンのダウンタウンは 海抜1メートルほどしかない。
アメリカでニューヨークに続いて水没リスクが高いとされるのが、サンブランシスコだ。ところが、ニューヨークもサンフランシスコも不動産価格は高騰している。
少しずつ北を目指し、海辺の高台に住もう
現在、世界の政治は欧州を除いて、地球温暖化、気候変動リスクを織り込んで動いていない。ノルウェーのように、すでにEV車の販売比率が65%などという国は、例外中の例外だ。
経済もまた同じで、気候変動リスクを織り込んで動いていない。日本の場合は、とくにそれが顕著だ。
もし、この先間違いなく「低炭素社会」がやって来るとしたら、その変化に敏速に対応すべき企業が生き残っていくが、実際は、まだまだ疑心暗鬼の企業が多い。このままでは、いざとなったときグリーンシフトできない企業はどうなるのか、見当がつかない。
私がいちばん不思議なのは、金融資産も気候変動リスクを織り込んで動いていないように見えることだ。株式は、テスラ株の暴騰などがあってそうでもないが、不動産は明らかに変だ。水没リスクの高い大都市の不動産が上がり続けている。
このメルマガで以前、「気候移住」の話を書いたが、いずれそれを実行しなければならないときがやってくる。いまのような温暖化対策では気温上昇が抑えられないのは間違いないからだ。
現在の自然環境を人類に適したものとして維持しようなどとは、おこがましい。そのおこがましい温暖化対策をやるくらいなら、温暖化する環境に私たちのほうが適応すべきではないだろうか。
少しずつ北を目指そう。そうして海辺の平地を諦め、海辺の高台に居を定めよう。
(了)
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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。