連載855 「台湾有事は日本有事」は口先だけ。 日本人に本気で中国と闘う覚悟などない(下)

連載855 「台湾有事は日本有事」は口先だけ。
日本人に本気で中国と闘う覚悟などない(下)

(この記事の初出は8月9日)

 

最善の台湾防衛は、台湾人自身が行うこと

 アメリカが「口先番長」にすぎなくなったことは、アメリカ軍がすっかり弱気になってしまったことにも現れている。
 日本では大きく報道されなかったが、昨年9月、軍制服組トップのマーク・ミリー統合参謀本部議長は、トランプ政権末期に人民解放軍のトップに対して攻撃の意図はないと電話で伝えていたことを、上院軍事委員会の公聴会で認めている。
 また、今年の4月、ミリー統合参謀本部議長とオースティン国防長官は、同じく上院軍事委員会の公聴会に出席し、暗に台湾有事には参戦しないことを証言しているのだ。
 この委員会では、主にウクライナ情勢が質疑応答されたが、そのなかで、トランプ・チルドレンの1人のジョシュ・ホーリー共和党議員がウクライナ情勢に関連して台湾有事について質問すると、ミリー統合参謀本部議長は次のように証言したのである。
 「最善の台湾防衛は、台湾人自身が行うことだ。例えばウクライナでしているようにわれわれは台湾を助けられる。ウクライナから本当に多くの教訓を得た。これらは中国が極めて深刻に受け止めている教訓でもある」
 「(中国が台湾を攻略するためには)台湾海峡を横断し、広い山岳地帯で水陸両用作戦や、数百万人が住む台北市を空爆することになる。中国に対する最善の方法は、接近拒否抑止力を通じて、台湾攻撃が非常に達成困難な目標であることを、彼らに思い知らせることだ」
 この発言をどう解釈するかには異論があるが、「最善の台湾防衛は、台湾人自身が行うことだ」と言っている点で、アメリカ軍には直接参戦の意思がないとみていいのではなかろうか。
 日本では、そんな見方はタブーとされるが、実際、台湾人自身も、そう考えているという世論調査がある。今年の3月に台湾民意基金会が実施した世論調査によると、アメリカ軍の参戦を「信じる」が34.5%だったのに対し、「信じない」は55.9%と、なんと過半数に達しているのだ。


ペロシが去った後にミサイル発射の意味

 中国は、このようなアメリカ側、とくに軍の動きを注視している。日本政府の「注視」はなにもしないことを意味するが、中国は「注視」に基づいて戦略的な行動をする。
 そのため、ペロシ訪台で、これまでにないエスカレートした行動に出たと言えるのだ。
 ただし、中国もバカではない。チキンゲームをするにあたって、一定の抑止はしている。それは、台湾包囲の軍事演習とミサイル発射を、ペロシ議長が台湾を離れた後に実施したことだ。
 ペロシ議長が訪台を中止せず、堂々と訪台したことは、中国の抑制を引き出したのである。アメリカは中国に覇権を渡さないという、強烈なメッセージになったと言えるだろう。
 もし、ペロシ議長と蔡英文総統の会談中に、中国がミサイルを発射すれば、どうなっただろうか? それは、単なる威嚇行動ではないから、米中関係はさらに悪化しただろう。
 ところが、日本ではこのように情報分析する見方が本当に少ない。保守派、右派は、「台湾有事は迫っている。日本も防衛力を強化、国防費を増額すべき」とトーンを強め、リベラル、左派は「日本は米中対立の架け橋になるべきだ」「外交で解決するように働きかけるべきだ」などと、“かっこいい”だけの主張をしている。

 

(つづく)

この続きは9月21日(水)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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