連載856 「台湾有事は日本有事」は口先だけ。
日本人に本気で中国と闘う覚悟などない(完)
(この記事の初出は8月9日)
防衛費GDPの2%に増額は無意味
ここで、保守派、右派が主張する防衛費増額について、ひと言触れておきたい。それは、日本がいくら防衛費を増額しても、なんの意味もないということだ。現在の議論は、これまでのようにGDPの1%に限定するのでなく、2%に引上げる必要があるということだが、2%は約10兆円である。
そこで、中国の軍事費はどうかというと、中国政府が発表している2022年の国防費は1兆4504億5000万元(約26兆3000億円)である。日本の2022年度防衛予算案は5兆4005億円だから、およそ5倍ということになる。
つまり、この約5兆円を倍増してGDPの2%にあたる約10兆円にしても、はたしてどんな効果があるというのだろうか。中国にはるかに及ばない。
しかも、中国経済は成長を続けている。その成長に合わせて国防費も今後どんどん増えていく。ところが、日本は成長せず、GDPの2%が支出の限界としたら、その差は数年で10倍、数十年で何10倍にもなるだろう。
現在のところ、中国の国防費はアメリカに続き世界第2位である。ただ、実際の中国の国防費は、たとえば海外から調達した軍事備品などは含まれないから、すでにアメリカに匹敵しているという見方もある。いずれにしても、日本がいくら防衛費を増額しても、とても対抗できるものではなくなっている。
「健軍100年」の2027年が節目の年に
防衛費の増額は、その分、経済を圧迫する。国民の負担も増える。それでも、私たちは覚悟してそれを行う必要があるが、問題は増額より、その中身だ。どう国防を強化するかだ。
いまさら、空母艦隊をつくり、東シナ海で中国海軍と対峙する意味はあるのか? アメリカから撃ち落せないというミサイル防衛システムを買う必要はあるのか?
そんなことをするより、強力なサイバー部隊をつくり、有事には中国の継戦能力をサイバー攻撃により中枢から破壊する、あるいはミサイル攻撃を無力化する電磁波シールドを日本の技術力で開発する、などしたほうがはるかに効果的だろう。
国防予算の半分は、自衛隊員の人件費や食料である。これを倍にして、自衛隊員を増やすというような「愚かなこと」をしてほしくない。
習近平は、「人民解放軍創設100年」の2027年を一つの節目として、軍事強国を目指すことを決めている。「中国の夢」が実現する2049年、すなわち中国建国100年を前に、中国軍はアメリカ軍と拮抗する軍になっていなければならないとしている。
「建軍100年」の2027年まで、あとわずか5年しかない。それまでに、はたして台湾併合はあるのだろうか?
自衛隊は最前線で中国軍と交戦する
最後に問いたいのは、私たち日本人は本当に「台湾有事は日本有事」ととらえ、台湾人といっしょに戦う覚悟があるのか?ということだ。
アメリカがいくら台湾を守ると言っても、彼らは太平洋を隔ててはるか彼方にいる。いくら、日本に基地があるとはいえ、その参戦は限定的だろう。ウクライナのように、参戦しない可能性のほうが高い。
アメリカの参戦は、議会が決める。多くのアメリカ人は、日本の憲法や安全保障法制について、ほぼなにも知らない。知っていたとしても、それに縛りがあるということに納得しないだろう。
とすれば、アメリカが万が一参戦すれば、自衛隊は最前線で中国軍と交戦することになる。日本の若者たちは、中国の人民解放軍の若者たちと戦火を交えるのだ。
このとき、戦後80年近くにわたって続いてきた「日本の平和」は崩壊し、日本人の血が再び戦争によって流れることになる。そしてなによりも、この台湾防衛戦争に負ければ、日本は北京のコントロール下に入ることになるだろう。「自由、人権、民主主義」は単なるおとぎ話と化す。
中国が強大化し、超大国になる未来は目前である。
いま、私はひたすら、習近平がコトを起こさないでほしいと願っている。それ以外にできない。そして、できることなら、アメリカが中国の巨大化を押しとどめ、世界覇権を維持し続けてほしいと願っている。
(了)
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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。