連載862 加熱する食料投資とフードテック投資
世界的な「食料危機」は日本も襲うのだろうか?(下)
(この記事の初出は8月30日)
農産物の輸入額がGDPに占める割合が1割
ここで、食料危機を考えるにあたって、大きく分けて2つの側面があることを認識する必要がある。1つは、農産物などの食料の価格高騰により、十分な食料が買えないことで起こる危機。もう1つは、食料そのものが不足して起こる危機である。
つまり、前者では食料は足りている場合がある。ただ、価格が高くて買えないだけである。しかし、後者では食料そのものがない。つまり、後者のほうが本当の危機だ。
いまの食料危機は、前者から始まり後者に移っているのは間違いない。食料が足りなくなってきたうえ、価格も高騰しているからだ。したがって、自給自足ができない多くの途上国では、危機はさらに深刻化する。
では、日本の場合はどうだろうか?
日本には、莫大な外貨準備と対外債権がある。それを考えれば、食料を買い負けることはないだろう。世界で農産物、水産物が足りていれば、日本はそれを買えばいいだけだ。
農林水産省によると、わが国は世界第1位の農産物の輸入国で、小麦やとうもろこし、大豆などは、ほとんどをアメリカから輸入している。農産物の輸入額は約5兆円で、GDPに占める割合は約1割である。しかし、これが途上国となると、農産物の輸入額がGDPに占める割合は3、4割にも達する。
つまり、世界の食料生産が安定していれば、日本では食料危機は起こらないと見ていい。ちなみに、日本の消費者が輸入の農水産物に支払う金額は、全飲食料品支出額の2%にすぎない。小麦に限っていえば、0.2%。食料品支出の大半は、加工・流通・外食が占めている。
台湾有事でシーレーンが遮断される場合
以上のことから、日本で食料危機が起こるとしたら、それは、なんらかの事情で、農産物などの食料を輸入できなくなった場合である。
たとえば、台湾有事で南シナ海と東シナ海の情勢が緊迫し、食料の海上輸入ルートであるシーレーンが使えなくなったとしたらどうだろうか。
日本の農産物輸入先国を見ると、第1位はアメリカで24.5%、続いて第2位は中国で12.4%、以下、オーストラリア6.8%、タイ6.8%、カナダ6.2%、ブラジル5.1%となっている。この上位6カ国で農産物輸入額の6割以上を占めている。
もし、台湾有事でシーレーンが遮断されると、これらの国からの農産物の輸入はストップしてしまう。
とはいっても、それによって私たち国民が飢えるかと言えば、そうとは言い切れない。輸入農産物に依存する食料供給を自国供給に転換すれば、日本はやっていけないこともないからだ。
ただ、それは、本当に貧しい食生活で、終戦直後への回帰と言ってもいいだろう。すなわち、お米と芋などの農産物と、水産物を中心とした食生活だ。
食料安全保障では日本は世界第9位
誰もが漠然と思っているように、日本の食料自給率は低い。日本は食料を輸入に頼らなければやっていけいけないと、私たちは教えられてきた。実際、「日本の食料自給率は38%である」と政府は言っている。
農林水産省は、例年8月に、最新の食料自給率を発表する。最新の2022年8月に発表された2021年度の食料自給率は38%。前年の37%から1%増えたが、依然として低すぎると、メディアは報道した。
この低い自給率によって、近年、「食料安全保障」が提唱されようになり、自給率アップが論議されるようになった。
しかし、 FAO「国連食糧農業機関」の2020年のレポートによると、世界113カ国の食料安全保障状況は次のようになっている。
なんと、日本は77.9ポイントで世界9位なのである。ちなみに、このポイントは100ポイントを満点とし、食料価格、値ごろ感、食料資源、安全性、品質などの指標で比較したものだ。
(1)フィンランド 85.3
(2)アイルランド 83.8
(3)オランダ 79.9
(4)オーストリア 79.4
(5)チェコ 78.6
(6)イギリス 78.5
(7)スエーデン 78.1
(8)イスラエル 78.0
(9)日本 77.9
(10)スイス 77.7
(11)アメリカ 77.5
(12)カナダ 77.2
これを見ると、日本は、小麦などの有数の生産国アメリカ、カナダよりも高い。なぜこんなことになっているのだろうか?
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。