連載863 加熱する食料投資とフードテック投資 世界的な「食料危機」は日本も襲うのだろうか?(完)
(この記事の初出は8月30日)
世界でも低い食料自給率38%のカラクリ
日本の食料自給率が低い理由は、それが、農林水産省によって人為的つくられた数字だからだ。
1960年に食料自給率は79%あった。そして、その6割を米が占めていた。しかし、政府与党は、農家の票を維持するために「減反(生産減少)」政策をとり、米の生産を抑制してきたのだ。
この国民にとってはまったく意味のない政策により、JA農協は利益を確保し、農林族議員は安泰となった。現在にいたるまで、日本の米の生産量は減り続けている。それは、減反すれば補助金がもらえるからだ。こんなバカなことをやっている国は、世界のどこにもない。
食料不足だというのに、国がそれを率先して推進している。しかも、税金をつぎ込んで—。
もし政府がいまの減反政策を廃止すれば、米の生産は飛躍的に増大し、食料自給率は跳ね上がる。また、地球温暖化により、日本でも同じ場所で同じ作物を1年に2回栽培し収穫する「二期作」を実現できる。
日本は、このように、いざとなれば食糧危機を十分に回避できるのだ。
世界で急拡大するフードテック・ビジネス
いま世界で食料危機回避の切り札として、注目されているのが、「フードテク」である。文字通り、「フード」と「テクノロジー」の合成語で、テクノロジーを使って従来の食料生産、食品生産、調理法などを改善、発展させることを目指している。
前記したように、フードテック・ビジネスには「川上」と「川下」がある。
順に説明していくと、川上で代表的なのが、植物由来の原料で作る「代替肉」「植物ミルク」、必要なエネルギーと栄養をもれなくとれるようにつくられた「完全栄養食品」、食品廃棄物で育てた昆虫を食料にする「昆虫食」などだ。
また、天候や気温などに左右されずに安定して植物を栽培できる「植物工場」、陸地のプラントで魚を育てる「陸上養殖」、動植物の食べられる部分の細胞だけを抽出して培養する「細胞培養」なども、大いに注目されている。
すでに、私は代替肉を試してみたが、これは本物の肉と変わらず、言われなければ植物由来とはわからない。また、牛乳の代わりにつくられたオート麦やアーモンドに由来した植物ミルクは、牛乳よりはるかに体にいいので、最近は、よく飲んでいる。
川下の代表的なものは、冷蔵庫や調理器具をインターネットでつなぎ食材の無駄を減らす「スマートキッチン」、スマホで使える「賞味期限管理アプリ」、食品の長期保管を可能にする「コーティング・包装・容器技術」や「特殊冷凍技術」「フードロス削減」などのほか、農作業を効率化する「オートトラクター」。同じく外食を効率化する「無心レストラン」などがある。
すでに、アメリカででは無人レストランの「Eatsa」(イーツァ)が人気で、日本でもつくられるようになった。
フードテックに完全に出遅れた日本
フードテックの市場規模は、2020年時点で、日本円で約24兆円とされているが、2050年には現在の10倍を超える279兆円まで拡大すると予測されている。
しかし、日本ではほとんど盛り上がっていない。農林水産省によると、2019年時点でのフードテック分野への投資額は、アメリカが9574億円、中国が3522億円、インドが1431億円、英国が1211億円となっているが、日本はたったの97億円。完全に出遅れている。
これは、日本が人口減社会になり、食料需要が伸びる見込みがないことが、大きく起因している。いくら、テクノロジーが進み生産効率が上がろうと、需要そのものが減少しているのだから仕方ないと言える。
しかし、食料危機は世界的な大問題で、その解消のために努力をしなければ、人類の未来は暗い。また、国内市場だけが市場ではない。
じつは、日本政府も危機感がないわけではなく、フードテック促進のために、2020年10月に農林水産省が、産学官連携による「フードテック官民協議会」を立ち上げた。そして、今日まで、テーマごとの作業部会(ワーキングチーム)が開かれてきた。
しかし、はっきり言って、今日まで大きな成果はない。
日本はなにをするにも、話し合いばかりで、具体的な行動が起きない。そういう社会になってしまっている。
(了)
【読者のみなさまへ】本コラムに対する問い合わせ、ご意見、ご要望は、
私のメールアドレスまでお寄せください→ junpay0801@gmail.com
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。