連載864 温暖化で激変する不動産価格、
人々は「海辺から高台」「南から北」を目指す(上)
(この記事の初出は9月6日)
現在の遅々として進まない二酸化炭素削減(カーボンニュートラル)政策では、地球温暖化は防げない。となると、気候変動、海面上昇から逃れるには、「気候移住」しか選択肢がない。こうして、半世紀後、1世紀後を見据えての静かな移住の動きが、世界的に始まっている。
庶民は動けないが、自由に動ける富裕層から、「海辺から高台」、あるいは「南から北」へ、住む場所を変えるようになった。それに伴い、不動産価格も変化しつつある。
やがて日本も、この流れに巻き込まれるだろう。
ハワイで始まった海面上昇リスクの情報開示
いま、ハワイの不動産取引に異変が起ころうとしている。
というのは、今年の5月1日より、ハワイ州は全米で初めて、州内の不動産取引の際に売主が買主に対して、海面上昇のリスクに関する情報開示を必須とする法律を施行したからだ。開示義務は3.2フィート(約97センチ)までの海面上昇エリアにある物件に適用される。
つまり、このエリアにある物件は、これまで通りの売買価格に海面上昇リスクが加味されることになる。
この法律の施行に当たって、ハワイ州では、海面上昇の予測モデリングマップをウエブで公開した。
それによると、高波や高潮による氾濫、また海岸線の浸食などの影響を受ける地域が0.5フィート(約16センチ)から3.2フィートまでの4段階でインタラクティブに表示されている。
海面上昇を3.2フィートまでに設定したのは、「IPCC」(気候変動に関する政府間パネル)の「第5次評価報告書」の予測、2100年までに最大で82センチ上昇をベースとしたものだ。もし、本当に3.2フィート上昇した場合は、ワイキキのビーチフロントはほぼ水没することになる。
堤防を築くかビーチ全体を公園にするか
ハワイでは早くから、州議会で温暖化対策が議論されてきており、2019年には対策法案が州議会を通過している。
ただ、具体的になにをやるかについてはまだ決定していない。
ワイキキの場合、海面が2フィート(約61センチ)上昇すると、ビーチはほぼ水没する。3フィート(約91センチ)ならアラワイ運河近辺まで海面が上昇するので、現在のワイキキのホテル、コンドミニアムが立ち並ぶ街並みはほぼ水に浸ることになる。
すでにそれを見越して、ハワイ州は海面より3フィート以上高い場所に家を建てるというガイドラインを設定しており、カマケエ通りのホールフーズやワードビレッジのサウスショア・マーケットは盛土の上に建てられた。
ワイキキビーチは、ワイキキが観光地として開発されたときにカルフォルニアから運んだ砂でつくられた人工のビーチである。人工とはいえ、ビーチのほうが堤防を築いたりするより水害には有効とされる。
そのため、現在の市街地を守るために堤防を築くよりも、ビーチを含めた海岸線全体を公園にしてしまおうという構想がある。
いずれにせよ、現在ワイキキにあるコンドミニアムなどの物件は、このまま有効な対策がなされなければ、物件価値が下がる。同じ理由で、カハラやハワイカイ、ノースショアなどの高級物件も影響を受ける。
とくにハワイカイは、オーシャンフロントに高級住宅が立ち並び、庭先からボートで直接海に出られる物件も多い。これらの物件の価値は下がる可能性がある。
(つづく)
この続きは10月4日(火)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。