連載865 温暖化で激変する不動産価格、 人々は「海辺から高台」「南から北」を目指す(中)

連載865 温暖化で激変する不動産価格、
人々は「海辺から高台」「南から北」を目指す(中)

(この記事の初出は9月6日)

 

2100年までに水没するアメリカの都市

 ハワイばかりではない。全米では、都市の海沿いの不動産は下がる傾向にある。インフレで住宅価格が高騰しているというのに、これまで人気だった海沿いの物件が急速に人気を失いつつある。
 ロサンゼルスやマイアミの海沿いの豪邸が売り出される例も多くなっている。
 アメリカでは、IPCCの海面上昇予測より高い予測が多く出ており、最悪のケースでは2100年までに6.5フィート(約2メートル)まで上昇するとされている。
 となると、数多くの海沿いの都市は水没する。気候研究機関の「クライメート・セントラル」(Climate Central)が開発した「グーグルアース・プラグイン」を使うと、海面上昇にともなって、アメリカの都市がどうなるかを見ることができる。
 以下、水没リスクが高い都市の状況をざっと見ていきたい。

[サンフランシスコ]
 現在、地下水の過剰な汲み上げにより地盤沈下が発生しているサンフランシスコでは、海面上昇はさらなる危機を招く。2100年までに、代表的な観光地「フィッシャーマンズ・ワーフ」は水没すると見られている。
 ベイエリア沿いの海抜が低い地域は、どこも同様なリスクがあり、市では防水壁や盛り土で地震と海面上昇に備える港湾プロジェクトに着手している。
[ワシントンDC]
 首都を代表するモニュメントの多くがリスクに晒されている。リンカーン記念堂のリフレクティングプールは水没するが、記念堂自体は2メートルの海面上昇では水没しない。
 ポトマック川に隣接する入り江タイダルベイスン沿いトーマス・ジェファーソン記念堂は水没する。
[チャールストン]
 全米でもっとも水没リスクが高い都市の一つとされる。市のほぼ全域が2100年までに水に浸かる可能性が高い。南北戦争の端緒となったサムター要塞は水没する。
[ニューオーリンズ]
 2005年のハリケーン・カトリーナでは、市の約80%が水没した。海面上昇は、これと同じ状況をもたらす。2100年までに、市の全域が上昇する海面の下に消え、約50万人が恒久的な避難を余儀なくされるという。
[マイアミ]
 沿岸部が平坦なフロリダ州は、海面上昇の影響を受けやすい。もしグリーンランドの氷床がすべて溶けた場合、マイアミの北ウェストパームビーチの南側がすべて水没する。トランプ前大統領の別荘「マー・ア・ラゴ」も危ない。
 南フロリダの4郡(モンロー、マイアミデード、ブロワード、パームビーチ)では、満潮線から1.2メートルに満たない低地に約240万人が暮らしている。すでに、マイアミビーチやフォートローダーデールでは、道路の冠水現象が頻発している。そのため、南フロリダの4郡は行動計画の概要を作成し、2060年までに少しずつ地域を「再設計」しようとしている。

(つづく)

この続きは10月5日(水)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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