連載867 温暖化で激変する不動産価格、
人々は「海辺から高台」「南から北」を目指す(完)
(この記事の初出は9月6日)
大阪、東京とも多くの地域が水没
以上、アメリカの水没都市を見てきたが、海面上昇の危機は世界どこでも同じだ。以前のメルマガ(No.623)でも紹介したが、これまでの報道を見ると、欧州ではロンドン、アムステルダム、ヴェネッツアがよく取り上げられている。アジアでは、バンコク、ジャカルタ、シンガポール、上海、香港などだ。
これらの都市の沿岸部の一部では、不動産価格が下がるのを見越して、不動産を手放す動きが出ているという。
そこで日本、東京、大阪はどうなっているのか、改めて見てみると、最近にわかに、そういう動きが出始めているという。前回のメルマガでは、たとえば東京のベイエリアでは「タワマンの販売が依然として好調なのが信じられない」というようなことを書いたが、どうもそうではないようだ。
「全国地球温暖化防止活動推進センター」によると、海面が1メートル上昇すると大阪では、北西部から堺市にかけての海岸線はほぼ水没する。東京でも、堤防などを高くするなどの対策をとらなければ、江東区、墨田区、江戸川区、葛飾区のほぼ全域が影響を受ける。
こうしたデータが、不動産取引に影響を及ぼすようになってきたという。
ベイエリアのタワマン人気はピークアウト
最近、東京ベイエリアのタワマン人気を引っ張ったのは、なんと言っても東京五輪の選手村が転用された「晴海フラッグ」に申込者が殺到したことだろう。同じく、豊洲にできた「豊洲ベイサイドクロスタワー」もすぐ売り切れた。
しかし、不動産専門家によると、「最近は浸水リスクを問題にする買い手が増えているうえ、将来リスクを見越して売りに出す人間も増えている」という。
豊洲では、隅田川が氾濫した際の浸水リスクがまず心配される。次に、海面上昇による水没リスクが続く。ハザードマップを見ると、豊洲には1メートル以内の海面上昇、高潮で浸水が想定される地域がいくつか存在する。2021年の台風19号では武蔵小杉のタワマンが浸水被害にあったが、それでわかったのが、タワマンが意外と水害に弱いことだった。
「タワマンに限らず、ベイサイドの物件は今後もう上がらないでしょう。気候変動が顕著になってきたので、ベイエリア人気は下火になりつつあります」(不動産専門家)
トレンドは「ハイランド」と「ニューノース」
貧困層や余裕がない中間層は、いくら温暖化が進もうと移住する余裕などない。しかし、富裕層は違う。いまだに戦争を起こす国がある世界では、国際的な対策など信用できないとして、個人的に対策、つまり移住、移動を始めている。
そういうムーブメントを象徴する言葉が「ハイランド」(高地、高原)と「ニューノース」(新しい北部)だ。
もともと、高原や高地は避暑地として人気があったが、温暖化が進んでさらに人気が上がっている。たとえば、マーク・ザッカーバーグはハワイのカウアイ島の高地に土地を買い、ビル・ゲイツは日本の軽井沢に邸宅を建てている。
「ニューノース」として人気の都市は、アメリカでは、クリーブランド、デトロイトなどの五大湖周辺の都市、カナダではトロント、バンクーバー、ヨーロッパでは北欧のオスロ、ヘルシンキ、ストックホルムなどが挙げられる。
いずれの都市も豊かで、温暖化で冬も過ごしやすくなっている。一部の人間は、なんとグリーンランドのヌークという港湾都市に目をつけている。
日本でも、今後は国内で「ハイランド」と「ニューノース」がブームになるだろう。長野県の高原地帯、北海道の道南地域などが注目されるようになるだろう。
とはいえ、「気候オアシス」の最適地がどこなのかは、まだいまひとつはっきりしない。
(了)
この続きは10月7日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。