連載868 底なし円安の先にはハイパーインフレが!? 日本人自身が「資産フライト」(円売り)すれば…(上)

連載868 底なし円安の先にはハイパーインフレが!? 日本人自身が「資産フライト」(円売り)すれば…(上)

(この記事の初出は9月13日)

 円安は止まりそうもない。黒田日銀は意地でも金融緩和を維持するつもりだから、円安はどこまで進むのかわからない。ただし、日米の金利差だけが円安の原因ではない。
 問題は、この円安で日本人自身が円を売り始めたことだ。まだわずかとはいえ、「円売り」=「資産フライト」は加速しており、これが本格化すれば、ハイパーインフレになるという見方がある。

 

デタラメとしか言いようがない円安論議

 今日までの円安論議を聞いていると、いまだに「円安で企業が日本に戻ってくる」「為替は変動するもの。いずれ反転し円高に変わる」などという見方があるのには、唖然とさせられる。
 “ミスター円”と呼ばれた元財務官の榊原英資氏は、最近、「年末までには160円ぐらい、来年には180円くらいまでいくんじゃないか」と言い出した。この方は、7月に円が130円台になったとき、「140円すら超えるかもしれないが、150円や160円など一段と大幅に進むことはないだろう」「急激な円安は続かないので、日銀が為替市場に介入する必要はない」と言っていた。
 話はさかのぼるが、2011年、あの東日本大震災後に円高が進んで79円を記録したときには、「年末までに1度60円台になるかもしれない」と指摘していた。まったく、定見がない。
 結局、榊原氏というのは、市場の雰囲気を見て発言しているだけの“見物人”にすぎない。こういう方は、専門家と言われる人々のなかに、数多くいる。
 榊原氏と対照的なのが、為替が変動すると常に引っ張り出される“伝説のディーラー”藤巻健史氏だ。この方は、円安一辺倒、財政破綻論者で、こればかりずっと言い続けている。
 いつの時点でも、いずれ円は大幅に安くなり、「1ドルが400円、500円になってもおかしくない。そうなると、財政は破綻し、ハイパーインフレがやってくる」と言うのだ。
 私はこれまでに、円と日本経済に関する本を何冊も書いてきたが、このお二方ほど、自分はいい加減ではないと思っている。ただ、どちらかと言えば、私の見方は藤巻氏の主張に近く、円は安くなるだけで、2度と円高にはならないと考えている。

日米の金利差より経済衰退のほうが問題

 現在の止まるところを知らない円安に関して、専門家もメディアも、その最大の原因を「日米の金利差」に求めている。次に、最近定着してきた経常赤字を原因としている。つまり、欧米がインフレ対策で金融緩和を止めて金利を上げているのに、日銀は“異次元緩和”を続行している。そこに、インフレで輸入物価の上昇による経常収支の赤字が追い打ちをかけているというのだ。
 しかし、この2つ以上に大きいのは、“日本売り”である。日本経済の凋落が誰の目にもはっきりし、円を持つ旨味がなくなったことが最大の原因である。この見方を、私はもう何年も前からしてきたが、今回はコロナ禍、世界的インフレで、それがはっきりした。
 その証拠に、円はなにもドルに対してだけ下げているのではない。ユーロ、ポンド、スイスフランなどに対しても下げ、主要国の通貨のなかで、ほぼ“一人負け”である。
 年初来の主要国通貨の対ドル下落率を見ると、円は20.0%と突出している。ポンドは14.7%、ユーロは12.0%、スイスフランは6.6%、豪ドル6.7%である。アジアの通貨では、人民元は8.8%、韓国ウォンは13.7%だ。日本円の20.0%は異常である。


(つづく)

この続きは10月11日(火)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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