連載879 先進国から転落中の日本の「辺境、あるある」 (完)

連載879 先進国から転落中の日本の「辺境、あるある」
(完)

(この記事の初出は9月20日)

 

「タコツボ文化論」と「ゆでガエル理論」

 大多数の日本人が、自分たちが「辺境」「ガラパゴス」で暮らしているとは思っていない。まさか、この日本が世界から周回遅れなどとは思っていない。そういうことを多少感じても、それを信じまいとしている。
 いったいなぜ、これほどまで明白な現実があるのに、日本人に辺境感が薄いのだろうか?
 それは、私たちが「タコツボ」に住んでいるからだ。政治学者の丸山真男が提起した「タコツボ文化論」によれば、タコツボ化とは、ある特定の組織や分野が、その内側だけに専門的に特化していき、それ以外の組織や分野とのつながりが乏しくなっていくというものだ。
 こうして、結果的にガラパゴスができあがってしまう。一時期流行した携帯電話の「ガラケー」や「iモード」は、タコツボ文化の産物だ。
 もう一つ、日本の辺境化は「ゆでガエル理論」で説明できる。「急に熱湯にカエルを入れると驚いて飛び出すものの、カエルが入っている水を少しずつ熱していくと、熱湯になるまでカエルは気付かず、最後には茹で上がって死んでしまう」という寓話がある。
 このプロセスのなかで、私たちは生きているというのだ。
 つまり、時代とともに環境や状況は刻々と変化していくのに、日本人はそれに気がつかない。


メディアのせいで「辺境」が可視化されない

 「タコツボ」で暮らし、いずれ「茹でガエル」になるなど、誰だって望まない。しかし、日本が辺境であるとはっきり自覚しない限り、なにも起こらないだろう。
 それではなぜ、私たちは、自分たちの状況を自覚できないのかと、改めて考えてみると、メディアのせいではないかと思う。
 日本のメディアはいまやすっかりジャーナリズム機能を失い、社会問題に切り込むことがほとんどなくなった。いま起こっていることを調査・分析することもなくなった。
 そのため、私たちはメディアを通して、自分たちの実像を知りえなくなってしまった。日本のガラパゴスぶり、辺境ぶりが、メディアを通して「可視化」されていない。
 これは、マスメディアに限らず、ソーシャルメディアも同じだ。フェイスブックやインスタに、誰が辺境映像をアップし、生活の苦しさなどを寄稿するだろう。誰もが、SNSのなかでは、着飾り、おしゃれをし、セレブ生活を送り、ありのままの日常の姿を見せない。
 また、日本は不思議な社会で、階級格差が認識できない仕組みになっている。たとえば、金持ちと貧困層が隣り合わせに同じ市街地で暮らしている、欧米では、富裕層は高級住宅地に住んでいる。
 また、会社においても、日本はヒラ社員と社長が一緒にカラオケ、居酒屋に行く文化がある。
 こうしたことも、日本人が格差を認識できないことにつながり、ガラパゴス化、辺境化が進んでいく原因になっている。


いずれ“破局的な日”がやって来る

 というわけで、日本のガラパゴス化、辺境化は止まらない。なぜこうなってしまったか、いまさら原因を考え、それを止めようとしても、もう手遅れだろう。
 少子高齢化、人口減、莫大な政府債務、円安、加速するインフレ—-など、もはや問題山積で、小手先の対策ではどうにもならないところまで日本は来てしまった。
 といっても、いずれ日本のこの状況は、ガラガラポンされるときがやってくる。グローバル化とネットで世界から辺境がなくなっているというのに、日本だけが辺境であり続けられるわけがない。いずれ、“破局的な日”(ドゥームズデイ)がやって来る。
 その被害をまともに受けないためには、政府に期待などせず、自分自身で対策を実行するほかない。
 しかし、そうはいっても、自分の故国、生まれ育った環境、美しい山河、四季の営み、世界一と思える食文化、すべて日本語で通じる社会生活を捨てるのには、相当な覚悟がいる。
 私はやはり日本人だから、飛行機が成田や羽田に着くとホッとする。飛行機の窓から房総半島や東京湾が見えると、「ああ、帰ってきたんだ」と、何度、同じ光景を見ても胸に熱いものがこみあげる。
 いくら、辺境、ガラパゴスだろうと、ここは私が育った愛すべき母国、故郷である。


(了)

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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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