第2回 小西一禎の日米見聞録 働き過ぎなのは日本人、それとも米国人?

第2回 小西一禎の日米見聞録 働き過ぎなのは日本人、それとも米国人?

 今特別号のテーマの一つ「ホリデー」。ハロウィンに始まり、サンクスギビング、クリスマスと毎月ビッグイベントが各地で繰り広げられる様子は、まさに米国そのものだ。日本ではまず見られない本場のハロウィン装飾が近所で競い合うようにお目見えし、子どもが泣き出しそうな本格ホラー人形も登場。私の焼き方が下手だったのか、決して美味と感じられなかったターキーを3時間かけて調理し、クランベリーソースを添える。マッシュポテト、コーンブレッドなども一通りテーブルに並べた。

 クリスマスでは、日本ではあり得ないことを数多く経験した。郊外の農場で、自ら伐採した「モミの木」を車の屋根に何重ものひもでグルグルに縛り付けてもらった後、落ちないか気にしながら自宅へ。高さ2メートルにも上る天然クリスマスツリーが室内に出現し、ほのかにシトラスのような柑橘類の芳香が漂った時には、念願を叶えた思いで心が満たされた。カートが山積みになるぐらい大量のプレゼントを米国人同様に買い揃え、自分でラッピング。多様な人種、宗教を背景に「メリークリスマス」ではなく「ハッピーホリデー」と言うのも、大いに勉強になったのを思い出す。

 帰国して1年半の身にとって、全てが既に懐かしい記憶で、米国で経験できるのは、ただただ羨ましい限り。さて、前置きが大変長くなったが、ホリデーと表裏一体なのが、仕事・労働ということになろう。ホリデーを満喫するために、その手段として仕事をしているような人たちも一定数いると思われる。相互が密接に関連する休み方と働き方について、日本と米国の違いはどれほどあるのだろうか。

 

年間平均労働時間は米国、1日当たりは日本が上回る

 経済協力開発機構(OECD)によれば、G7サミット(主要7カ国首脳会議)の参加国のうち、年間の平均労働時間が最も長いのは米国であるというデータを知らされると、驚く人もいるのではないだろうか。私もその一人。2011年以降、かれこれ10年近くトップを保っているのである。2021年のデータを見ると、日本は1607時間で、米国が1791時間。バブル景気の興隆を極め、米国の不動産を買い漁っていた1980年代は、日本が最も長かった。その後、派遣やパートの非正規労働者が増えたのを受け、いつの間にかトップが入れ替わった。

 別のデータも見てみる。内閣府が毎年作成する男女共同参画白書(2020年版)は、OECDが同年にまとめた生活時間(15~64歳の男女を対象)調査の統計を引用。これによれば、日本男性の有償労働時間(1日当たり)は452分でトップだった。一方、米国男性は320分。同じく有償労働時間で、日本女性は272分、米国女性は246分で、男女ともに日本の方が長いことが分かる。男性の方が長いのは日米のみならず、各国も一様だ。ただ、男女比(女性を1とした場合の男性倍率)では、日本が1.7倍なのに対し、米国は1.3倍にとどまっている。伝統的な性的役割が影を落としているのかもしれない。

 「年間平均労働時間は米国の方が長く、1日当たりの有償労働時間では日本の方が長い」との背景を読み解くと、祝祭日の多寡も関係しているとみられる。6月と12月を除き、毎月祝祭日がある日本と比べると、米国の祝祭日は極めて限られているのは言うまでもない。祝祭日以外にも、1月2日から社会が動き始める米国に対し、日本では三が日やお盆は休む人が目立つ。

休み方は米国に軍配

 米国のオンライン旅行会社「エクスペディア」が毎年実施している調査では、有給休暇の取得率について、2021年は日本が60%(過去最高)、米国は80%、2020年が日本45%、米国50%という数値が浮かび上がっている。有休の年間支給日数は日本が20日間、米国は半分の10日と異なっているものの、有休の取り方については、米国人の方が大いに生かしていると言える。

 大雪やハリケーンで甚大な被害が予測されると、前日には会社や学校がクローズの判断をする米国。日本は最近になって、大雪や台風の接近に備え、鉄道各社が計画運休に踏み切る流れが広がっている。世界中にリモートワークをもたらしたコロナ禍が、両国の働き方と休み方をさらに変えていくのか。コロナからの立ち直り具合にも大きく左右されることだろう。

(了)

小西 一禎(こにし・かずよし)
ジャーナリスト。慶應義塾大卒後、共同通信社入社。2005年より本社政治部で首相官邸や自民党、外務省などを担当。17年、妻の米国赴任に伴い休職、妻・二児とともにニュージャージー州フォートリーに移住。在米中退社。21年帰国。米コロンビア大東アジア研究所客員研究員を歴任。駐在員の夫「駐夫」として、各メディアへの寄稿・取材歴多数。「世界に広がる駐夫・主夫友の会」代表。執筆分野は、キャリア形成やジェンダー、海外生活・育児、政治、メディア。著書に『猪木道――政治家・アントニオ猪木 未来に伝える闘魂の全真実』(河出書房新社)。


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