連載880 先止まらない円安とインフレの先にある 「インフレ税」と「財産税」で財産を没収される未来(上)
(この記事の初出は9月27日)
今後、私たちは「インフレ税」という見えない税金を払わされることになる。いや、もうすでに払わされている。そして、その先にあるのが、「財産税」である。どちらも、政府が積み上がった借金を逃れる方法で、国民は財産を没収されて、地獄に突き落とされる。
日本の財政・金融政策はもはや「詰んでいる」ので、こうなっていく可能性は十分にある。
では、インフレ税、財産税とはなにか? そうなる前に、私たちがすべきことはなにか?
国債の大量発行が招いた円安とインフレ
これまで何度も述べてきたように、円安の最大の原因は、日本が量的緩和を止められないことにある。止めれば、金利が跳ね上がり、日銀が債務超過になり、国家財政が逼迫して予算が組めなくなるからだ。
そのため、すでにインフレ対策で緩和から引き締めに転じて利上げに入ったアメリカとの金利差が開く一方になっている。
日本が量的緩和を続けてきたのは、アベノミクスの推進者たちが、「MMT」(現代貨幣理論)という馬鹿げた経済理論を信じたことにある。いまだに、自国通貨で国債を発行できる国はデフォルトしないと言っている識者がいるのが、私には信じがたい。
彼らは常に財政出動、財政拡大を主張し、税負担なしに国債によってそれをまかなえる。国債を財源とすれば、いくらでも財政支出ができると言い続けている。
しかし、国債を際限なく発行するということは、おカネを刷り続けるということだから、マネーストックが膨張し続ける。つまり、おカネが市場に溢れ、インフレが亢進する。インフレ亢進に歯止めが利かなくなると、物価が短期間で倍々になるハイパーインフレになる。
緩和マネーは当座預金にブタ積みに
このように、現在の円安とインフレを招いたのは、国債の大量発行である。それなのに、日本のインフレはアメリカと違う。円安による「輸入インフレ」で、ほぼ海外要因だと解説している識者がいるのには、これまた驚くほかない。
たしかに、エネルギー価格、農産物価格が上がり、それに円安が拍車をかけたのは事実だ。しかし、仮に円安がなかったとしても、インフレは起こっただろう。
コロナ禍前まで、デフレが続いてきたのは、緩和マネーがあまり市場に出ず、日銀内の当座預金にブタ積みされてきたからだ。日銀はこれに0.1%の不利を付けているので、インフレは抑えられ、デフレが続いてきたのである。
しかし、コロナ禍からは、流れが変わった。
日本もアメリカも巨額のコロナ対策
コロナ禍で世界各国が、膨大な財政出動を行った。その財源のほとんどは、日本と同じように国債発行でまかなわれた。この財政出動マネーは、ほぼすべてがコロナ対策費として市場に出た。
日本の場合は、2020年度、2021年度に補正予算を含めてそれぞれ175兆円、142兆円という巨額の財政支出が行われた。そのなかには、これまでに例がない全国民を対象とした総額約12兆9000億円の特別定額給付金があった。さらに、休業補償、雇用調整助成金などもあった。雇用調整助成金にいたっては、現在も続けられている。
アメリカの場合は、納税額制限が設けられたが、大半の国民がこれまで3回の現金給付を受けた。1回目は1人最大1200ドル、2回目は同600ドル、3回目は同1400ドルで、計3200ドル(約46万円)である。これらのマネーとこれまでの緩和マネーが合わさって、コロナ禍が終息すると、記録的なインフレが起きた。
このインフレを止めるため、FRBは量的緩和を手仕舞いし、利上げに入ったのである。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。