連載881 先止まらない円安とインフレの先にある 「インフレ税」と「財産税」で財産を没収される未来(中)

連載881 先止まらない円安とインフレの先にある 「インフレ税」と「財産税」で財産を没収される未来(中)

(この記事の初出は9月27日)

 

なぜインフレが「インフレ税」になるのか?

 アメリカのインフレは前年同月比で10%近くになるもので、これは2~3%のマイルドインフレと異なり、国民生活を圧迫する。そのため、FRBは景気悪化の懸念はあっても、断固として利上げを継続している。
 とはいえ、インフレは物価が上がるのだから、それが何%であろうと、税金を払っているのと同じことになる。インフレとは通貨の価値が下がることと同義なので、インフレが起こると借金を持っている人間はトクをする。
 つまり、なんといっても膨大な借金を抱えた政府は、インフレにより債務を軽減させることができる。
 政府債務は、そのほとんどが国債を発行して民間から調達したものである。つまり、インフレになると、貸し手である民間から政府に購買力が移転するかたちになる。そのため、「税」を付けて、インフレによる負担を俗に「インフレ税」と呼んでいる。
 じつは、日本のような巨額の財政赤字を抱える国にとって、インフレは恵みの雨である。金利を押さえ込んだまま、インフレが亢進すれば、国債の利払い費の価値は実質低下する。これまで抱え込んだ債務も軽減される。さらに、物価上昇によって自動的に税収も増加する。


10%のインフレでインフレ税はいくらか?

 インフレ税は、債務の額(債務残高)を、インフレ率を上乗せした値で割って求めることができる。
 計算式は次のとおり。

債務残高(名目)× 1/1+インフレ率=債務残高(実質) 

 では、この式を使い、名目債務残高が1000兆円でインフ
レ率が10%の場合、実質債務残高がいくらで、インフレ税
がいくらか見てみよう。

 1000兆円× 1/1+0.1(10%)=909兆円

 1000兆円の借金が実質で909兆円になるのだから、インフレ税は91兆円ということになる。日本の公的債務残高は現在約1200兆円である。この計算式どおりなら、政府は大幅に債務を軽減できることになる。もし、インフレ率が100%なら、債務は半分になる。
 このように見れば、なぜ、日銀が円安を食い止めるために、日米の金利差を縮める利上げに踏み切らないのかがわかるだろう。


誰も逃れられない「見えない税金」

 しかし、インフレ税を払うのは国民だから、政府は助かっても、国民は助からない。インフレ率と同じに賃金が上がらなければ、多くの国民の生活は成り立たなくなる。
 現在の日本の状況はまさにこれで、スタグフレーションが日々刻々進んでいる。今後、生活必需品の値上げラッシュが続けば、国民生活はますます苦しくなっていくだろう。
 インフレ率が高いほどインフレ税も増える。もしハイパーインフレなどということになれば、もはや暮らしは成り立たず、経済は破綻する。
 インフレ税は、実際の税金とは異なり、誰一人として逃れることができない「見えない税金」である。実際の税金のように、所得が増えるにつれて税率も上昇する「累進性」などないから、低所得層ほど負担がより重くなる「逆進性」を持っている。
 前記したように、インフレ税は「見えない税金」である。そのため、国民に税を取られているという意識を生じさせず、こうした問題が議論されることもほとんどない。メディアは、物価が上がって大変だと騒ぎ、生活防衛を訴えるだけである。


(つづく)

この続きは11月1日(火)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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