連載883 先止まらない円安とインフレの先にある 「インフレ税」と「財産税」で財産を没収される未来(完)
(この記事の初出は9月27日)
財産税は「資産フライト」を誘発する
2021年12月、「世界不平等研究所」(本部・パリ、フランスの経済学者トマ・ピケティ氏らが運営)が発表したレポートによると、コロナ禍により世界の富裕層と貧困層の格差は広がっている。世界の上位1%の超富裕層の資産は2021年、世界全体の個人資産の37.8%を占め、下位50%の資産は全体の2%にすぎない。
日本の場合は、上位10%の資産が57.8%で、そのうち最上位1%は24.5%。下位50%は5.8%となっている。
このように、世界の富(日本も含めて)は、富裕層に偏在している。したがって、富裕層に財産税を課すことは、世論の支持を得られるだろう。
ただし、これが本当に実施されるとわかれば、間違いなく、「資産フライト」(資本逃避)が起こる。すでに、富裕層でなくとも、円資産をドル資産に換える「ドル転」を行なっている。これが大規模に起これば、インフレは沈静化するどころか、逆にハイパーインフレの引き金を引く可能性がある。
財産税は、預金封鎖や新円切替とセットで行われるもので、1回限り。それも突然でなければ、このグローバル経済のなかで、逃げ道はいくらでもある。
インフレ率7%で11年後に資産価値半減
ハイパーインフレになると、資産はあっという間に目減りする。とくに、現金の場合、実質的な目減りがいちばん激しい。
たとえば、預貯金はインフレ率が2%なら、36年後には半減してしまう。仮にインフレ率が7%になると、実質価値が半減するのはわずか11年後である。
日本人は現金志向が強い。しかし、もしそれが当面使わない資金なら、そのまま円の現金で保有しておくことは著しく不合理だ。円安はさらに進み、それにインフレが追い打ちをかけるというダブルパンチに見舞われる。
そこで、常に言われるのがドル預金である。
日本とアメリカの国力を比較し、そこから将来性を客観的に分析すれば、アメリカの強さは圧倒的である。為替相場が国力を反映するなら、どう見ても、この先、円高などという局面はやって来ない。
そこで、円安進行中のいま、「外貨預金」(ドル預金)の人気が高まっている。
「ドル転」はいいが「外貨預金」は不利
円安基調になってから、外貨預金、とくにドル預金が増えている。金利差を考えれば当たり前だが、日本の銀行で行う外貨預金には大きなデメリットがある。
まずは税金。外貨預金では利息に対して20.315%の税金が、為替差益は雑所得として所得税と住民税が課される。利息は「利子所得(課税方式は源泉分離課税)」となるため確定申告は不要だが、為替差益は雑所得(課税方式は総合課税)となるため、原則として確定申告が必要になる。
さらに両替手数料が高い。「預け入れ(円→外貨)」と「払い戻し(外貨→円)」の2つのタイミングで手数料がかかり、なんと1円も取られる。よって、行って来いで2円も取られてしまう。さらに、1000万円までの預金が保証される「預金保険制度・ペイオフ」の対象外だ。
したがって、「ドル転」するなら、外貨預金ではなく外貨MMFのほうが圧倒的に有利で、外貨MMFの場合、両替手数料は25~50銭ほどのうえ、株式等との損益通算が可能だ。
日本円を日本の銀行に預けるという行為は、金利0.01%を得るために、インフレによる目減りを受け入れるということである。さらに、その先に、ハイパーインフレと財産税が待ち受けているとしたら、もはや、絶句するほかないのではなかろうか。
(了)
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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。