連載887 不動産バブル崩壊、食糧危機、習近平続投—-
中国が抱える「3大リスク」とは?(完)
(この記事の初出は10月4日)
「在庫が豊富なので食糧危機はない」は本当か?
驚くべきことに中国政府は、「食糧買い占め」を否定する一方で、十分な在庫を持っていることを強調する。その態度は大きく矛盾している。なぜなら、自給自足できないものは買わざるをえないからだ。そうして得たのが、十分な在庫だからだ。
この辺のところも、遠藤誉・筑波大学名誉教授の寄稿は、2つのトピックを紹介して、詳しく解説している。
まずは、6月20日、国家発展改革委員会が「我が国の食糧価格はなぜ安定しているのか?」に関する説明を行ったこと。次に、6月21日の「農民日報」の『世界食糧危機に対応するには需要と供給の両方から瞬発力を発揮しなければならない』という記事。
国家発展改革委員会は、自信を持ってこう述べている。「中国の穀物価格が全体的に安定している理由は、最終的には、我が国が強力な穀物供給と価格の安定を確保するための強力なメカニズムと政策措置を確立したからである。穀物の総在庫は十分であり、小麦と米の在庫は1年以上の消費需要を満たすことができる」
『農民日報』も、自信を持ってこう書いている。「――総量で見ると、わが国の穀物生産は近年『18回連続の豊作』を達成し、年間の穀物生産量は7年連続で0.65兆キロに達し、中国の穀物の基礎を成している。一人当たりの所有量の観点から見ると、中国の一人当たりの食糧所有量は480キログラムに達し、国際的な食糧安全基準である一人当たり400キログラムをはるかに上回っている。
在庫の観点から見ると、わが国の穀物在庫は約40%であり、これも世界平均の17%をはるかに上回っている。穀物という観点から見ると、三大穀物(米・麦・とうもろこし)の自給率は 90%以上に達しており、食糧安全に関しては『絶対的な安全性』を満たしていると言えよう」
遠藤誉・筑波大学名誉教授によると、中国政府が食糧を豊富に持っていることを強調するのは、毛沢東の教えがあるからだという。その教えとは、「人民はご飯を食べさせてくれる側に付く」というものだという。
第3次習近平体制で決まる中国の未来
習近平は毛沢東崇拝者である。「マオイズム」を守れば、中国は発展できると信じているという。そのため、不動産バブル崩壊は放置し、ゼロコロナ政策をとり続け、食糧危機などないことを強調する。
しかし、これらすべては、私には強がりとしか思えない。
いずれにしても、3選後に習近平体制がどうなるかで、中国の今後は決まる。
注目は、中国経済の舵取りをしてきた李克強首相の後任に誰がなるかだ。有望視されるのは、党序列4位の汪洋(ワン・ヤン)全国政治協商会議主席と胡春華(フー・チュンホア)副首相である。どちらがなっても、習近平の毛沢東路線より柔軟な経済運営になるだろうとされている。ゼロコロナを放棄し、アメリカとの対立も回避する方向に向かう可能性がある。
しかし、本当の鍵を握るのは、党序列5位の王滬寧(ワン・フーニン)の動向という。なぜなら、彼が重用されれば、現行路線がいっそう強化されるからだ。中国経済圏の拡張を狙った「一帯一路」構想、対立相手には威嚇も辞さない「戦狼外交」、そしてアメリカとの「対立」などは、みな王滬寧の発案だからである。
経済力が落ちた中国に「台湾有事」の余裕なし
はたして、今後、中国は、いま抱えるリスクを乗り越え、さらに発展できるのか? それとも、このまま長期衰退に入るのか? それは、第3次習近平体制次第である。
日本では、ウクライナ戦争の影響もあって、最近は、「台湾有事」ばかりが強調報道されている。中国がいまにも台湾を併合をするようなことを日本の保守派、右派が煽り、メディアもそれに乗って防衛費増強を主張している。
しかし、習近平がプーチンのような頑固な帝国主義者で独裁者でないかぎり、台湾有事はないだろう。長老たちは、力による台湾併合に反対している。
さらに、なによりも経済力が落ちているいまの中国に、そんなことを起こす余裕はない。それ以前に、プーチンのロシアを見れば明らかなように、習近平・中国がそんな愚かな選択をするだろうか?
(了)
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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。