連載890 どうなる円安、物価高、賃金安?
「失策」「愚策」続きの岸田内閣と日本経済の行方(中2)
(この記事の初出は10月18日)
政府内で密かに進む「年金改悪」
岸田政権は、バラマキ以外の知恵がない。
ただ、各省庁は自分たちの省益を守るために、悪知恵をめぐらし、国民から税金以外でカネを吐き出させようとしている。
それが、「年金改悪」である。
9月28日付の日本経済新聞は、一面で『国民年金「5万円台」維持へ 抑制策停止、厚生年金で穴埋め』という記事を掲載した。すでに財源枯渇で危機的状況にある国民年金を救済するため、サラリーマンが加入する厚生年金の報酬比例部分(2階部分)の支給額を減らし、浮いた財源を国民年金に回して穴埋めしようというのだ。
試算によると、現行のままだと2046年度には、国民年金の支給額が3割弱下がるという。それがわかっていて、誰が国民年金を払うだろうか。
もう一つ、画策されている「改悪」がある。それは、国民年金の保険料納付期間を現行制度における20~59歳という「40年間」から、20~64歳の「45年間」にしてしまおうというものだ。
この案が政府内で検討されていることを、共同通信が10月15日の配信で伝えた。
すでに年金は、この10月から改悪されている。
「週20時間以上」勤務するパートの厚生年金加入が義務化されたうえ、「年収130万円」を超えるパートも配偶者の扶養家族から外れ、厚生年金等に加入して自分で年金保険料を支払わなければならなくなった。
このことだけを見ても、もう年金財政がもたないことは明白だが、政府はけっしてそれを認めようとしない。
すでに導入されている「マクロ経済スライド」は経済が成長していくなかで、受給者が気付かないように年金の価値を少しずつ減らしていく仕組みである。
しかし、これは日本経済が成長していくという前提でできた制度だ。なにより経済が成長しないのだから、もはや年金崩壊は時間の問題である。
国民生活より「政官一体」政府の存続が優先
ここで、現在の最大の問題、円安問題に戻る。
なぜ、日本政府はこの歴史的円安を放置しているのだろうか? 放置し続ければ、ヘッジファンドなどの投機筋の餌食になるうえ、下手をすればハイパーインフレを招いて、国民生活が破壊される。
それがわかっていてなにもしないのは、やはり、それでいいと思っているからだろう。金融緩和による金利抑制を必死で続けていることは、現状では、国と日銀の“延命策”としか思えない。
金利を上げてしまえば、国債の利払い費がかさんで日銀は債務超過となり、政府は予算が組めなくなる。長期金利が5%なんてことになったら、税収はほとんど吹っ飛ぶ。
よって、日本政府、つまり「政官一体の組織体」は、「あとは野となれ山となれ」で、国民生活より、自分たちの存続を第一目的としているのだ。
そうしてハイパーインフレになって国民生活が破壊されても、かまわない。国は助かるからだ。なぜなら、政府債務は圧縮され、莫大な公的債務はほぼなかったことになる。
よって、なにもしない。もし、いまバタバタすれば、アベノミクスを筆頭にした自民党政権のこれまでの失政が明らかになる。それだけは避けたい。先日の円買い介入は見せかけで、ポーズに過ぎないと、私は断じる。
もし、この説が正しければ、円安は止まらず、物価高は続き、スタグフレーションはさらに深刻化する。
(つづく)
この続きは11月14日(月)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。