連載891 どうなる円安、物価高、賃金安? 「失策」「愚策」続きの岸田内閣と日本経済の行方(下)

連載891 どうなる円安、物価高、賃金安?
「失策」「愚策」続きの岸田内閣と日本経済の行方(下)

(この記事の初出は10月18日)

 

利上げだけではインフレは収まらない

 主流メディアも専門家も、円安の主因を日米の金利差としているが、本質はそうではない。前記したように、国力の衰退であり、それを端的に示しているのが、貿易収支の赤字の拡大だ。そして、その最大の原因は、エネルギー価格の高騰だ。
 アメリカのインフレも、コロナ禍でのバラマキと金融緩和によるマネーストックの増大に、エネルギー価格の高騰が拍車をかけたからである。つまり、利上げだけでは、インフレは収まらない。
 専門家とメディアは、日本も金融緩和をやめ、金利を上げろと言っているが、そうしても、物価上昇は止まらないだろう。円安も止まらないはずだ。
 なお、エネルギー価格の高騰はウクライナ紛争とは関係ない。なぜなら、その1年前から一本調子で上昇してきたからだ。
 現在、2回目の円買い介入が囁かれているが、そんなことをしてもなにも変わらない。むしろ、無駄なあがきと見透かされ、墓穴を掘るだけだろう。
 先日、「OPECプラス」は、原油価格維持のために一時約束していた増産をやめて減産に転じた。これがすべてを表している。この動きは、アメリカですら止められなかった。すでにアメリカは、中東支配から手を引いてしまっている。

 

「OPECプラス」は石油価格を絶対に下げない

 世界中でエネルギーおよび農産物の在庫が底を突いている。半導体不足も続いている。この状況で、金利のコントロールでインフレを止めようとしても、限定的な効果しかない。つくづく、日本の経済・金融専門家たちは、専門馬鹿になり過ぎていると思う。
 「OPECプラス」の動きは、欧米の気候変動対策と連動している。すでにEUは2030年までに、クリーンエネルギーに大転換し、原油などを使わない方向に舵を切っている。バイデン政権も、気候変動対策を、コロナ対策、経済対策、人種対策と並ぶ4大課題の一つと位置づけ、積極的に取り組んでいる。2030年までに温室効果ガス排出量を2005年比で50~52%削減、遅くとも2050年までにカーボンゼロを達成するとしている。
 アメリカで気候変動対策にもっとも積極的なカリフォルニア州は、先日、2026~35年にかけてガソリン車の販売を段階的に禁止する新たな規制案を決定した。これにより2036年からは、ガソリン車は走れなくなる。
 こうした状況を見れば、「OPECプラス」が石油で稼げるのは2029年が限界だ。となれば、原油価格や天然ガス価格を下げるような決定を下すわけがない。
 ちなみに、こうしたことがわかっていてウクライナ戦争を起こしたプーチンは、本当にバカである。
 目先の金利差を縮めて円安を止めても、日本が抱える問題はなにも解決しない。

 

原発再稼働こそがもっとも有効な対策

 日本の気候変動対策の遅れは、目を覆うばかりだ。デジタル化の遅れよりひどい。とくに岸田政権になってからは、カーボンの「カ」の字も聞かなくなった。
 ただし、岸田内閣は8月末に、原発再稼働政策を打ち出した。
(1)福島事故後に稼働した10基に加え、7基を追加で再稼働する。
(2)次世代革新炉を新増設する。
(3)原則40年、最長60年と定められている既存原発の稼働期間を延長する。
 という3点が柱だ。
 私は、これだけは、評価してもいいと思う。現時点で日本が取れるクリーンエネルギー政策は、これ以外にないからだ。原子力発電所を動かして、原油や天然ガスの輸入量を減らすのがもっとも手っ取り早い、物価・インフレ対策である。
 実際、ドイツも同じ結論に達し、年内で停止する予定だった原発を来年も稼働させることにしている。

(つづく)

この続きは11月15日(火)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。 

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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