連載893 円安阻止で為替介入する愚策をやめないと、 日本は英国より酷いことになる!(上)

連載893 円安阻止で為替介入する愚策をやめないと、
日本は英国より酷いことになる!(上)

(この記事の初出は10月25日)

 これまで、何回、円安問題について触れてきただろうか?もういい加減にしてほしいが、日本政府は先週から今週にかけて、またもドル売り円買い介入を繰り返した。
 これは、とんでもない愚策だ。量的緩和の続行とインフレ対策で円をばらまき、その一方で円を買っているのだから、アクセルとブレーキを同時に踏んでいるようなもの。
 財源なしで大型減税をぶち上げ、国債の投げ売りを招いた英国より酷い。英国は、市場の反乱にあって首相が退陣するという騒動になった。しかし、日本の場合、この愚策を続けると、英国とは比べ物にならない市場の反乱にあうだろう。
 私たちの暮らしは、地に堕ちる。

 

タバコ1箱20本が2457円という英国

 先週、私の後輩の英国在住のジャーナリスト、森昌利くんが、SNSに次のような一文を投稿した。
《昨日、ものすごい衝撃を受けたこと。ロンドンのユーストン駅で水を買うためにレジに並びました。すると僕の1人前にいた女性がタバコを所望したのです。で、それが1箱14ポンド25ペンスという殺人的な値段だったのですよ。今日付のMUFGの外国為替相場を見ると、1ポンド172.47円。となると~うげえ~!! 2457円(小数点切り捨てで)。なんの変哲もない20本入りのタバコでした。まあ駅での相場はやや高めですが、それにしても。47歳で禁煙に成功していて良かった。1日に2箱行く日もあるヘビースモーカーだったので、今も吸っていたら大変なことになっています。タバコ代1日5000円。やっていられないですね(笑)》
 英国のインフレはすさまじい。ついに10%超えた物価高騰で、暮らせなくなった国民の数が日毎に増えている。
 財源なしの減税、バラマキ政策を撤回してリズ・トラス首相が退陣したとはいえ、事態はなにも変わっていない。消費者団体「Which?」は、19日、国内世帯の半数が食事回数を減らさざるを得なくなっているとメディアに訴えた。

 

いったい誰が英国首相になりたいと思う?

 現在、英国ではリシ・スーナク元財務相が保守党党首(次の首相)に決まったことが報道されているが、ご祝儀ムードは皆無。そればかりか、こんな冷めた見方もある。
 BBCのキャスター、ローラ・クンスバーグ氏は、『いったいぜんたい、そもそもどうして、保守党の党首になって、総理大臣になりたいなどと思う人がいるのだろう』(2022年10月23日、BBCニュース・ジャパン)というタイトルのコラムを書いている。
 彼は《今のこの状況で、トップになれるからといって、わざわざ党首選に臨もうなど、正気の沙汰と言えるだろうか》とまで書き、英国が直面する問題を次々と挙げている。
 《国民健康サービス(NHS)はぎりぎりの状態にあるし、高齢者や障害者の介護サービスも同様だ。教育は、新型コロナウイルスの余波からなかなか立ち直れずにいる。
 交通機関は老朽化が進み、住宅建設も難しい問題山積だ。そこへきて気候変動とエネルギー供給の問題もある。
 列挙してきた課題は、単独でも政府の意識がそこに集中してしまうほどの大問題だ。
 しかし、国民が必要としているさまざまな業務を政府省庁が実施するには、予算が必要で、その財政支出のための予算はこれからぎゅっと引き締められる。やがて訪れる緊縮財政の影響を、無視するわけにはいかない》
 日本は、この英国の状況に加えて、少子高齢化による人口減というほぼ解決が不可能な問題を抱えているのだから、状況はすでに英国よりはるかに悪い。そこに、いま、記録的な円安が襲いかかっているのだ。

(つづく)

この続きは11月17日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。