連載897 「米中逆転」という未来絵図は幻想。
習近平3期目独裁で中国経済はどうなる?(上)
(この記事の初出は11月1日)
毎週、いろいろなことがあり、めまぐるしく情勢が変わるが、今後の日本にもっとも大きな影響を与えるのは、やはり、大国となった中国だろう。
先日の共産党大会では大方の予想通り、習近平総書記の3期目続投が決まり、独裁体制が強まった。はたして、このような専制国家が今後も経済発展できるのだろうか?そうして、アメリカを超える「世界覇権国」になれるのだろうか?
それにつけても思い出されるのは、数年前まで盛んに言われていた「米中逆転」だ。
共産党大会での衝撃シーンの意味
なんといっても衝撃的だったのは、先日の第20回中国共産党大会。閉会の場で、習近平総書記(国家主席)の隣に座っていた胡錦涛・前党総書記が、係員に抱きかかえられ、強制的に退場させられたことだろう。この状況に、習近平も幹部も、ほぼ「知らんふり」を決め込んだのには、わが目を疑った。
まさに、中国の権力構造の恐ろしさを見せつけられたシーンだった。
いずれにしても、大方の予想通り、習近平の3期目続投が決まり、独裁体制が強まった。最高指導部を構成する政治局常務委員は習近平の側近で固められ、李克強首相ら意に沿わぬメンバーは外された。
これは今後、中国が経済、外交とも習近平が掲げる「中国の夢」=「中華民族の偉大なる復興」路線を突っ走ることを、内外に宣明したのも同然だ。世界の多くのメディアが言うように、「台湾併合」に向けての圧力は強まるに違いない。
共産党大会後の台湾メディアは、ほぼどこも、習近平独裁体制の強化を厳しく批判した。「習近平1人で国のすべてを支配するような体制では、“中華民族の偉大なる復興”は世界にとっては悪夢でしかない」とズバリ指摘し、台湾人に警鐘を鳴らした。
「脱中国」といっても現実的には難しい
言うまでもなく、日本経済は、いまや中国経済に大きく依存している。ここ数年、「脱中国」が進んではいるが、まだ日本の企業はしっかりと中国とのサプライチェーンのなかに組み込まれている。
たとえば、TDKや村田製作所は、中国での売り上げが5割を越えている。アイリスオーヤマやHOYAなどは中国の製造拠点を失ったら、製品をつくれなくなる。
ユニクロは、「チャイナゼロ」を目指して、製造拠点をベトナムやバングラディッシュなどに移転しているが、まだ、その途上だ。
今年の7月、在中国の日系企業の団体「中国日本商会」が発表した『中国経済と日本企業2022年白書』によれば、ユニクロのような中国撤退を行っている、あるいは検討している日系企業はまだ少数派だ。なぜなら、多くの日系企業が中国で儲け続けているからだ。
白書では、日系企業の中国法人を対象にジェトロが実施したアンケート調査(有効回答企業数685社)の結果を引用しているが、それによると、日系企業の2021年の業績は新型コロナウイルスが中国国内で大流行した2020年に比べて顕著に回復している。同年の収支が黒字だった日系企業は全体の72.2%で、前年比で8.7ポイントも増加している。
となると、中国進出企業にとって、中国経済が今後とも発展してほしいというのが本音だ。ただし、政治リスクがあるので、白書のアンケートでは今後1~2年の間に中国での「事業規模を拡大する」と回答した企業は、40.9%にとどまっている。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。