連載898 「米中逆転」という未来絵図は幻想。
習近平3期目独裁で中国経済はどうなる?(中1)
(この記事の初出は11月1日)
ただ数字を引き延ばしただけの未来予測
こうしたことを見るにつけて思うのは、数年前(いやいまも?)も言われている「米中逆転」だ。古くは「BRICs」という言葉をつくったゴールドマンサックが言い出し、その後、多くのメディア、経済レポートが追随した。
「いずれ中国のGDPはアメリカを追い抜く」というのだ。さらに、「中国の逆転でアメリカは世界覇権を失う」という説まで飛び出した。
こうした言説に関して、私これまでは一貫して否定してきた。『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)という本まで出した。
なぜ、私はそう確信したのか?
それは、こと経済に関しては、こうした言説が、中国の高い経済成長率をそのまま未来に引き延ばしただけの予測にすぎないこと、また、覇権交代という地政学的な考察を著しく欠いていたからだ。
たしかに中国経済の発展ぶりは、目を見張るものがあった。その中身も、けっしてハリボテではなかった。実際、「メイドイン・チャイナ」が世界中に溢れた。
ジム・ロジャーズがそうしたことに幻惑され、アメリカからシンガポールに移住したのも、無理はなかったと思う。
しかし、コロナ禍が起こってからは、「米中逆転」言説はすっかり下火になった。中国経済の減速が目立つようになってきたからだ。
2020年で中国の高度成長は終わった
ここで、「米中逆転」の元になっている中国の経済成長率を見てみよう。
ここのところ、IMFのレポートもそのほかの経済レポートも、中国の経済成長率を下方修正している。10月28日に公表されたブルームバーグのエコノミスト調査によれば、中国の成長率は2024年まで毎年5%を下回る見通しになっている。
今年の予想(中央値)は3.3%で、前回調査の3.4%から下方修正されている。また、来年の予想は5.1%から4.9%、2024年の予想は5%から4.8%にそれぞれ引き下げられた。
IMFのほうは、今年の7月時点で、今年のGDP成長率の見通しを3.3%と、4月時点の4.4%より大幅に引き下げている。
中国は、1978年の改革開放政策開始後、ずっと高い成長率を維持してきた。2桁成長が常態で、2010年に初めて10%を下回ったが、それでも高度成長は維持してきた。しかし、コロナ禍が起こった2020年からはとうとう5%を下回るようになったのである。
IMFなどは、中国がこの先も5%以上の成長を続けるとして、米中逆転予測をしてきた。たとえば、2021年の名目GDPはアメリカが約23.0兆ドル。中国は約17.5兆ドルで、中国経済はアメリカの約76%というところまでに迫っていた。
これもとに毎年5%を超える成長を遂げると、2029年の名目GDPはアメリカが約33.3兆ドル、中国は約33.5兆ドルとなり、中国がアメリカをわずかに上回る。つまり、「米中逆転」が起こるとされたのである。
しかし、すでに5%を下回り、回復は見込めないと見れば、「米中逆転」は起こらないと見ていいだろう。中国経済は、2020年を境にして、高度成長時代に終わりを告げた可能性が高い。そしてこの先は、現在の先進国並みの成長率になり、マイナス成長もありえる低成長時代になると、私は確信する。
(つづく)
この続きは11月24日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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