連載899 「米中逆転」という未来絵図は幻想。 習近平3期目独裁で中国経済はどうなる?(中2)

連載899 「米中逆転」という未来絵図は幻想。
習近平3期目独裁で中国経済はどうなる?(中2)

(この記事の初出は11月1日)

 

人口減と高齢化が経済成長を止める

 経済成長に大きく影響するのが、人口と高齢化である。人口が減り、高齢化社会が進めば、生産年齢人口が年々減るわけだから、経済成長はよほど大きなイノベーション、生産性の向上がない限り、減速せざるを得ない。
 国連は今年の7月、3年ぶりに「世界人口推計2022」(World Population Prospects 2022)を発表した。それによると、中国の人口は2022年7月1日時点で14億2589万人。中位推計で、減少に転じたとしている。そうして、来年(2023年)には、インドの人口が中国を上回り、世界最多の人口を有する国は中国でなくなるとしている。
 中国は、ここにきて「一人っ子政策」を廃止したが、合計特殊出生率は回復していない。国連は、2022年に1.18、2030年に1.27、2040年に1.34、2050年に1.39と推計している。
 また、高齢化率のほうも、2022年の14%が2030年には18%に上昇し、2035年には一気に23%に高まると推計されている。
 これでは、どう見ても、中国経済が再び高成長になるとは考えづらい。今後、どんどん減速していくと考えるのが普通だろう。

 

実需に基づかない住宅バブルの崩壊

 人口減がもたらすのが、住宅需要の減少だ。これまでの中国経済は、旺盛な住宅建設が牽引してきた。もともと実需をはるかに上回る住宅投資が行われ、それが中国の名目GDPを引き上げてきた。
 しかし、それも終焉を迎えた。それを端的に示したのは、昨年の恒大集団の巨額不良債権問題だろう。昨年12月、米ドル建て社債の利払いを期日通りに支払えずに事実上デフォルトした恒大集団の債務は、総額2兆元(約40兆円)と報道された。ものすごい額だ。
 恒大集団問題は、まだ長引いている。
 中国の住宅販売は、プレビルド方式(工事が着手される前に販売される)で、ローンの返済は購入と同時に始まる。しかし、工事の中断などで物件の引き渡しが遅れ、マンション購入者が住宅ローンの返済を拒否する動きが広まっている。
 現在、中国各地で、コロナによるロックダウンとローン返済で追い込まれた住民が反乱を起こしている。住宅販売は厳冬期に入り、不動産開発業者の経営は行き詰まり、銀行の不良債権となって積み重なっている。
 中国では、日本のバブル崩壊を反面教師にして、規制強化が行われてきたが、結局、「強欲の中国型資本主義」がバブル崩壊をもたらしたと言えるだろう。

 

先端半導体での遅れは全産業に及ぶ

 不動産以外に、この先、中国経済が減速、縮小していくのではと思えることを、あと2つ述べておきたい。
 まずは、現在のデジタル資本主義、デジタルトランスフォーメーションの根幹となる半導体の生産で、中国が大きく遅れていることだ。
 ウクライナ戦争でのロシアを見てもわかるように、先端半導体がなければ、兵器すらつくれない。まして、最新のIT機器は生産できないし、I oTのネットワークも構築できない。EVの性能も向上させられない。
 中国には半導体産業がある。政府も巨額の投資をしている。しかし、それによって半導体製造工場をいくら建設しても、肝心要の製造装置は70%以上を日本などの外国製に依存している。また、「中国産半導体」といっても、実際はその過半をTSMCやサムスン電子、SKハイニックスなど海外メーカーの中国拠点が生産している。中国の半導体の自給率は低く、2020年で約16%である。
 中国には半導体産業があっても、独自の装置と高度な技術がなく、オペレートできる人材も足りないのだ。こうした半導体におけるビハインドは全産業に影響し、今後、中国経済の成長を減速させるのは間違いない。

(つづく)

この続きは11月29日(火)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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