連載900 「米中逆転」という未来絵図は幻想。 習近平3期目独裁で中国経済はどうなる?(下)

連載900 「米中逆転」という未来絵図は幻想。
習近平3期目独裁で中国経済はどうなる?(下)

(この記事の初出は11月1日)

 

アメリカが仕掛ける「半導体戦争」

 半導体に関しては、トランプ前大統領以来の「制裁措置」が効いている。トランプ前大統領はファーウェイほか数社を標的にしたが、バイデン大統領はそれを半導体産業全般に拡大し、事実上の「半導体戦争」を中国に布告した。
 10月7日、バイデン大統領は、商務省を発令し、線幅が16ナノメートル以下の半導体については、半導体そのものも、生産装置も、原材料も、中国に対する輸出を許可制にした。さらにアメリカ国籍の者が中国の半導体企業で働くのを禁じた。
 これは中国にとって致命的で、今後じわじわと効いてくるのは間違いない。
 以前、日経新聞に、ファーウェイが製造した「オナー」ブランドのスマートフォンを分解してみると、部品の4割がアメリカ製だったという記事が出ていた記憶がある。
 ファーウェイは一時5Gの分野では、世界の最先端を走っていた。しかし、その中核技術は欧米に依存していたので、制裁措置を受ければひとたまりもない。いまや、ファーウェイのスマホの世界市場占有率は5%へと下落し、日本でもほとんど見かけなくなった。
 ファーウェイの売上額は、2020年の第2四半期がピークで、2022年の第1四半期にはその67%へと減少してしまった。ファーウェイの凋落は、中国のIT、ハイテク産業すべてに及ぶだろう。

 

官主導の補助金経済では成長は無理

 中国の市場経済をどう見るかで考え方は変わるが、習近平政権になって以来、鄧小平路線は否定され、経済の自由度はなくなっている。習近平政権によって、ジャック・マーのアリババは事実上、国に召し上げられてしまった。
 つまり、官が徹底して経済に手を突っ込み、経済をコントロールしようとしている。
 その手段が、国よる補助金という「飴」と、規制強化という「鞭」だ。
 中国はEV大国として世界の先端を行っていると豪語するが、それは政府による補助金のおかげだ。EVにはこれまでに巨額な公的資金がつぎ込まれ、それを当て込んだスタートアップが相次いだ。その結果、少なくとも60社程度の新興EVメーカーが誕生した。
 しかし、2019年6月から、補助金がほぼ半減すると、販売台数は急減し、その多くが倒産した。大都市の空き地に、EVの墓場が出現した。
 EV産業だけではない。多くのスタートアップが補助金狙いでつくられ、もらったあとは解散ということの繰り返しだ。2014年、中国政府はスタートアップ奨励のために、「大衆創業・万衆創新」を発足させて以降、このトレンドは変わらない。最近は、AIスタートアップが次々に誕生しているが、そのなかに将来のビッグビジネスに成長する可能性があるものはほぼなさそうだ。

(つづく)

この続きは11月30日(水)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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