連載903 岸田政権は「脱炭素」に無理解・無策。 なぜ日本は“環境後進国”に転落したのか? (壱ノ下)

連載903 岸田政権は「脱炭素」に無理解・無策。
なぜ日本は“環境後進国”に転落したのか? (壱ノ下)

(この記事の初出は11月8日)

 

安倍、菅、岸田の3政権はどうしてきたか?

 このように、アメリカの気候変動対策は本気度を増してきたが、まだ不十分という見方が強い。ウクライナ戦争、そして記録的なインフレも大きく影響し、現時点では、アメリカばかりか世界中で脱炭素は進んでいない。
 この状況を、じつはいちばん歓迎しているのが、日本政府ではないだろうか。とくに自民党は、これまで気候変動にほとんど興味を示さず、「ごまかしごまかし」でやってきたからだ。自民党議員のなかには、「温暖化説は陰謀。CO2犯人説はでっちあげだ」と公言する人間もいる。
 安倍元首相はトランプにべったりで、気候変動対策より原発輸出に入れ込んだ。「地球温暖化対策推進本部」による有識者会議は何度か開かれたが、毎回議論はされても、具体的な進展はなかった。
 その反省もあってか、安倍政権を引き継いだ菅前政権は、2030年に2013年比で温室効果ガスを46%削減すると表明し、さらに、2050年にゼロにするという大胆な「2050年カーボンニュートラル」宣言を行った。最近の首相のなかでは、菅前首相が気候変動対策に関してはもっとも意欲的だったと言っていいだろう。
 とはいえ、「2030年46%削減」という目標は日本の現状から見てかなりハードルが高く、専門家やメディアは懐疑的だった。この点を会見で突っ込まれると、菅首相は「これは積み重ねてきている政府としての数字だ。ここは全力でやり遂げたい」と述べるにとどまった。
 菅政権が短命に終わったことは改めて述べるまでもないが、それとともに、気候変動対策も後退した。次に登場した岸田文雄首相は、“聞くこと”と“検討”を得意とするだけで、決断力、実行力を示せないでいるからだ。
 現在の岸田政権の気候変動対策は、はっきり言って口先だけになる可能性が高い。なぜそうなのかは後に述べるとし、まずは、今回の「COP27」でなにが問題とされているのか? そして、日本の問題点とはなにか? を見ていきたい。

 

今回の会議で注目されることはなにか?

 前回の「COP26」では、日本が前年に続き「化石賞」を受賞したことが大きく報道された。この賞は、世界の環境NGOが参加する「気候行動ネットワーク」(CAN)が、COP会期中に「脱炭素」に消極的な国を毎日選出して贈るもので、日本以外にオーストラリア、英国、ブラジルなども選ばれたが、大きく報じたのは日本のメディアだけという、じつにばかばかしいものである。
 それでも、化石賞をもらった以上、その理由を考えなければならない。化石賞受賞の理由は「日本政府がいまだに石炭火力発電を使い続けるという方針を示した」ということ。要するに、脱炭素に対して、石炭火力は“最大の敵”なのである。これをやり続けようとしているのは、先進諸国、G7では日本だけだ。
 それでは、今回の「COP27」では、なにが問題で、なにが注目されているのか?これまでの報道、経緯などから、おおまかにまとめると、次のようになる。
・温室効果ガスの排出量削減を今後どうしていくか(各国が表明している2030年削減目標の引き上げ、対策の強化)
・気候変動による影響に対してどのような準備をしていくか(急速に激化する気候変動に「適応」するための各国の協力体制の構築)
・カーボンニュートラル実現のための途上国への技術的支援、金銭支援をどうするか(実現されていない先進国から途上国への資金援助交渉が中心)
 この3点は、いずれも、これまで議論されてきたことの延長線上にある。
 もちろん、このなかに、「石炭火力の廃止」も大きなテーマとして含まれる。前回の「COP26」では、合意文書に石炭火力の「段階的廃止」が盛り込まれるはずだったが、中国とインドの土壇場の反対により、「段階的削減」に修正されたことは記憶に新しい。

(つづく)

この続きは12月5日(月)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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