連載905 岸田政権は「脱炭素」に無理解・無策。
なぜ日本は“環境後進国”に転落したのか? (弍ノ上)
(この記事の初出は11月9日)
世界規模で「SDGs」(持続可能な開発目標)が叫ばれるいま、国も企業も「気候変動対策」(脱炭素:カーボンニュートラル)に真剣に取り組まなければ生き残れない。その意味で、現在、開催中の「COP27」(国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議)は重要な意味を持つが、日本政府、日本国民の関心は薄い。岸田政権も、“得意”の検討を重ねているだけだ。
かつて“環境先進国”と言われた日本は、いまや見る影もなく、“環境後進国”に転落してしまった。いったいなぜ、こんなことになったのか? 前回に続いて検証する。
議論が進んでいくだけの「GX実行会議」
岸田政権の気候変動対策は、はっきり言って「口先」だけに終わる可能性がある。これまで日本は国際社会を意識して、官僚中心で気候変動対策案をつくってきた。そこには、日本の独自性はまったくなく、しかも、多くの点で世界から遅れている。
岸田首相にいたっては、これまで検討されてきた案を理解せず、ただ丸呑みにして会議で表明しているだけに過ぎない。
たとえば、この7月、軽井沢で開かれた経団連の夏季フォーラムで、首相は「GX(グリーントランスフォーメーション)担当相」を新設することを表明した。さらに、脱炭素に向けての「カーボンプライシング(炭素の価格付け)などの政策に関して、「10年のロードマップを示し、企業の予見可能性を高めたい」と述べたうえで、「GX経済移行債」(GX債)を20兆円規模で発行するとぶち上げた。
GX債というのは、経済産業省が考えたもので、いわゆる赤字国債である。気候変動対策といっても、財源がないから、それを国債に求めたのである。しかし、国債となると財務省マターだから、両省の駆け引きにより、今後どうなるかはまったくわからない。
いずれにせよ、このような経緯で、官邸に「GX実行会議」が設置され、気候変動対策が議論されることになった。そして、これまで何回か会議が開かれたが、議論が進んでいるだけで、具体的なことはまだなにも見えてこない。
結局、岸田首相が“得意”とする「聞くこと」と「検討」が行われているだけのようだ。
突然決まった原発再稼働という大転換
ただし、この「GX実行会議」において一つだけ決まったことがある。それは、原発再稼働という、これまでのエネルギー政策の大転換だ。岸田首相は、第2回GX実行会議(8月)で、この新方針を突然表明した。
これまでの日本は、東日本大震災の教訓から、発電に占める原発依存度をできる限り低くする政策をとってきた。それを転換し、原則40年の運転期間の延長や新増設を認めるとしたのである。
ウクライナ戦争によるエネルギー危機が深まるなかで、この方針転換は仕方ないかもしれない。ドイツも背に腹は変えられず、一時的な原発再稼働を決めたからだ。しかも、原発は二酸化炭素を出さないクリーンエネルギー源だから、再稼働しても脱炭素促進が後退するわけではない。
しかし、カーボンニュートラルは「再生可能ネルギーへの転換」が中心だから、原発依存から脱却するのが世界的な流れである。現在、この流れに反しているのは、中国とロシアぐらいである。
その意味では、原発の再稼働と新設は時代に逆行する政策であり、あくまで一時的なものでなければならない。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。