連載906 岸田政権は「脱炭素」に無理解・無策。 なぜ日本は“環境後進国”に転落したのか? (弍ノ中)

連載906 岸田政権は「脱炭素」に無理解・無策。
なぜ日本は“環境後進国”に転落したのか? (弍ノ中)

(この記事の初出は11月9日)

 

担当大臣に見る岸田政権の気候変動無関心

 岸田政権の気候変動に対する「無理解・無策」を象徴するのが、「GX担当相」に、統一教会問題で火だるまになった萩生田光一経済産業相を、兼務とはいえ起用したことだ。
 萩生田氏は、菅前政権が宣言したカーボンニュートラル政策を踏襲すると表明してはいるが、もともと地球温暖化には関心が薄い。なにより、原発推進派の1人と目されてきた人物である。
 さらにもう一人、統一教会問題でウソを連発して辞任に追い込まれた山際大志郎氏を、これまで経済財政政策担当大臣に起用していたことは、岸田首相がいかに脱炭素を軽視していたかを示している。
 なぜなら、彼はかねてから「炭素税」には反対を表明してきたからだ。日本がカーボンニュートラルを進めるために、いまもっともすべきは、カーボンプライシングの重要な柱とされる炭素税をどうするかである。しかし、彼は炭素税そのものに反対してきた。
 現在、環境大臣には、自民党安倍派の西村明宏氏が就いている。この人も、自民党の総合エネルギー調査会幹事長を務め、原子力発電の強力な推進派の1人だった。
 このようなメンバーでは、気候変動対策が進むとはとうてい思えない。 

 

日本が直面している2つの問題点

 「2050年カーボンニュートラル」「2030年47%削減」などに向けて、日本の脱炭素政策の問題点は、大きく見て2つある。 1つは、世界各国で主流となっているカーボンプライシング制度導入の大幅な遅れだ。もう1つは、いまもなお石炭火力を稼働させていることである。
 カーボンプライシングには、代表的な手法として、「炭素税」と「排出量取引制度」の2つがあるが、この2つとも日本ではほとんど進んでいない。
 炭素税は、一言で言えば、温室効果ガスを輩出することに対して課す税である。石油やガソリンの輸入や使用に対して、その量に応じて課税し、その一方で温室効果ガスの排出量削減に努力すれば税負担を軽減するという措置を取る。そうすることで、企業に脱炭素に対するインセンティブを与えることができる。

 

「炭素税」導入に向けてのハードル

 しかし、炭素税は日本ではまだ導入されていない。ただし、「地球温暖化対策税」(温対税)という名目で炭素税に準じる税は導入されているが、その課税水準は各国に比べて著しく低く、しかも二酸化炭素排出量に応じた税率となっていない。
 たとえば、スウェーデンは二酸化炭素排出量1トンあたり119ユーロ(約1万7334円)だが、日本はなんと289円にすぎない。
 炭素税は、気候変動対策を進めるうえのでの財源となるが、この状況だから日本では財源が確保できないのである。
 それで、経産省は前記した「GX債」という国債を発案し、それに財務省が反対するのを見越して、一気に炭素税の導入を図ろうとしている。環境対策というと、環境省が中心になると考えがちだが、要はおカネの問題。経産省と財務省がOKしなければなにも進まないのである。聞くところによると、財務省は炭素税導入に乗るというが、まだ具体的な話は聞こえてこない。

(つづく)

この続きは12月8日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

タグ :